2018年12月28日金曜日

第2034話 友 遠方へと帰る (その1)

今年の2月だった。
深川で飲み歩いた三匹のオッサン。
そのうち1人が年内に東京を引き払って帰郷するという。
そうしょっちゅう顔を合わせる仲ではないが
同じ顔ぶれで一夜、送別の宴を催す運びとなった。
集まるのは大田区・大森の鰻屋で
大井町にも店舗をかまえる「3代目 むら上」である。

当日、 例によって先乗りをはたし、独り0時会の敢行に及ぶ。
JR京浜東北線・大森駅に到着したのは16時半近く。
持ち時間は30分少々しかない。
この時間帯ですがれる飲み屋はただの1軒。
町のランドマークと言えないこともない大衆酒場「富士川」だ。

入口そばのカウンターに空きが1つ。
接客のオニイさんにうながされて着席した。
右手には主婦らしき中年女性が2人。
左側は80歳前後のジイサンとアラカンのオッサンだ。
彼らは知り合いではなく、
たまたま居合わせたことが会話から読み取れる。
年長が年少に人生の生き方を説教している気配あり。

さて、さて、黒ラベルの大瓶をトクトク注いでグイ~ッ!
突き出しはたくあん&にんじんの炒め合わせのようなもの。
どうにも見映えが悪く、とても箸を付ける気になれない。
こういうのホント困るんだよねェ。
「要らないから・・・」と言うのも角が立つし、
「支払うけど出すなヨ」ってのも喧嘩打ってるみたいだし。
呑ン兵衛は呑ン兵衛なりに悩みを抱えながら生きているんだ。

壁のボードを見上げて品定めに入った。
時間的に大瓶1本、料理1皿が限界だろう。
候補に挙げたのは、平目刺し(480)
生かきフライ(580)、串カツ(580)の3品。
数年前、ここでは鯨で失敗した。
竜田揚げだったが劣悪な素材に閉口したものだ。

林SPFポーク使用の串かつに決めた。
生かきフライと同値を張るくらいだから
それなりに立派なヤツがきた。
豚肉の間に玉ねぎではなく長ねぎをはさみ、
いわゆるねぎま状になっている。
鯨の仇を豚で討ち、無事、本懐を遂げることができた。

「それじゃ、あたしゃ先に帰るヨ」
「また、お会いできたらお話していただけるでしょうか?」
「ああ、ああ、いいヨ。じゃあな、アディオス!」
ジイサンの洒落たセリフに感心するヒマもあらばこそ、
間髪入れずにオッサンが応えた。
「アミ~ゴ!」
思わず吹き出しちまったが、いや、恐れ入りました。
その即答にザブトン2枚献上させていただきます。
単なる酔っ払い同士と侮ったJ.C.が悪くありました。

=つづく=