2018年12月21日金曜日

第2029話 時を超えて初訪問 (その1)

港区・東麻布。
何か所用でもない限り、
あまり人々の訪れないエリアである。
東京タワーや芝公園にほど近いわりに
ここまで足を延ばす人は少ない。

高級うなぎの「野田岩」、鮮魚店が営む食堂「魚ゆ」、
珍しいアルゼンチン料理の「エル・カミニート」などなど、
それでも古くからある店が何軒か生き残っている。
以前はよく歩き回った地域だが
麻布十番同様に、ここのところ無沙汰つづきだった。

あれは15年ほど前。
1軒の鮨屋が目にとまり、
そのうち訪れるつもりでいたが、なぜか機会を失った。
何かの拍子にふと思い出し、訪問を決意した次第なり。

「日進デリカテッセン」で買い物したせいで
暖簾をくぐったのは18時を回っていたろうか。
予約は入れていない。
いわゆる飛び込みである。

つけ場には親子かな? 2人の職人サン。
つけ台にはいずれも近所の客だろう。
中年カップルが1組に3人連れの男女、
計5人の先客が逆L字形カウンターの角を占めていた。
彼らの前には親方が立っている。

お運びの女性にうながされ、
奥へ進んで二番手(息子?)の前に座った。
言葉づかいも所作も丁寧な好青年とお見受けした。
こういう職人ならキチンとしたモノを出すだろう。

ビールはサッポロ黒ラベルの中瓶。
突き出しは煮つけたひじきである。
「にぎりをお好みでいただきます」
「かしこまりました」

壁に掲げられた品書き札をながめながら
それぞれの”打順”を決めてゆく。
J.C.のラインナップはどの店に入ってもまず変わらない。

白身→ひかりモノ→いか・たこ・海老・貝類→
煮モノ→まぐろ赤身→巻きモノ→玉子

といった流れである。
注文は1種1カンで、それを2種づつ通してゆく。

最初に平目と細魚(さより)を。
平目にはおろしポン酢。
さよりには大葉があしらわれ、煮切り醤油が一刷毛。
ポン酢や大葉は不要ながら、何も言わず素直にいただく。
どちらもなかなかの鮨種にまずは一安心であった。

=つづく=