2018年12月25日火曜日

第2031話 時を超えて初訪問 (その3)

「魚治鮨」のつけ台にて考慮を重ねたラインナップ通りに
江戸前にぎりを食べ進んでいる。
合間にチョコッとつまむ漬けしょうががすばらしい。
普段はほとんど箸を付けないしょうがながら
都内屈指の出来映えに抗えず、
今宵はひんぱんに口元へ運んだ。

菊正の燗をお替わりして
本まぐろの赤身と穴子のカミ(上半身)。
まぐろは大間産とのことだが
大間ってそんなに本まぐろが揚がるのかネ?
ブランドにありがたみを覚えぬため、フツーに美味しい。

穴子のカミはシモの持つデリカシーがない代わり、
パワフルな旨みには長けている。
しかし、ここでまた繰り返すけれど、
穴子はソフトよりハードが好み。
これは生涯、変わることがあるまい。
例え、ジイさんになって歯が抜け落ちたとしてもネ。

自家製のおぼろ、いわゆるさがやの存在を知った。
常磐津にある
♪ 嵯峨谷御室の花盛り ♪
その御室(オムロ)をオボロにもじり、
マクラの嵯峨谷を隠語としたネーミングだ。
J.C.は幼い頃からおぼろに目がない。

松重豊サンのTVCMじゃないが心のうちで
「早く言ってヨ!」とつぶやきつつも
いいんだもんネ、問題ないんだもんネ。
ハナから存在を認知していれば、
小肌はもちろん、当夜は食べなかった車海老にも
おぼろカマせのにぎりをお願いしていたハズだ。

そんな成ゆきを意に介さぬ理由は次の品にあった。
そう、巻簾(まきす)できっちり巻いた、おぼろ巻きである。
中尾彬サンは
「締めの巻きモノはかんぴょうに限る」—
豪語しているがJ.C.は何たっておぼろだ。

質の良し悪しさえ問わなければ、
かんぴょう巻きはどこででも食べられるからネ。
もっとも生わさびを一緒に巻き込んだ上物は
真っ当な鮨屋に来なきゃ、口にできないけれど―。

わさびとともに巻いてもらって大満足。
通常、おぼろには芝海老か、平目などの白身が使われる。
当店はおそらく海老使用と思われるが
根掘り葉掘りははばかられるので訊かなかった。
よっておのれの味覚に訊ねたものの、確信は持てない。
まだまだだネ、J.C.も。

出汁巻きタイプの玉子を締めとしてお勘定。
1万円札で支払い、コイン数枚のお釣りがきた。
つまみは取らなかったものの、
ずいぶんいただいたから妥当な線であろう。
それより長い月日を超えて訪問叶ったことに歓びを感じる。
赤羽橋から都営大江戸線に乗り、帰宅の途につきました。

=おしまい=

「麻布 魚治鮨」
 東京都港区東麻布1-17-3
  03-3583-1729