2020年9月2日水曜日

第2472話 フォワグラ溶けてウナギに転ずる (その3)

赤ワインをニュージーランドのピノから
イタリアのモンテプルチアーノに切り替えた。
チウチウ ゴティコなる聞き慣れない銘柄は
ニュージーよりちょいと落ちるな、
というのが共通の感想だった。

主菜の1皿目は仔羊もも肉の低温ロースト。
1人前を分け合っているのに大きな肉塊が
それぞれのプレートに鎮座している。
様々な部位のミンチがもも肉に巻き込まれており、
複雑な滋味を醸している
ガルニテュールはコーン・いんげん・ひじき。
ポップコーンみたいな揚げライスに
セルフィーユもあしらわれていた。

赤ワインのソースが濃厚で
岩手南部小麦使用の自家製パンと相思相愛。
しっとりと柔らかいラム肉に
きめ細やかな食感を持つパンが寄り添う。
モンテプルチアーノで追いかければ
けっこうイケてるじゃん、このワイン。

続いて和牛煮込み&うなぎ蒲焼きのパイ包み焼き。
主役を取り巻く野菜たちが多種多彩だ。
ほうれん草・ズッキーニ・オクラ・ヤングコーン・
シュガースナップ・ラディッシュ・枝豆、
はては、むかごまで投入されている。
むかごは植物の肉芽(繁殖器官)で
普段、われわれが口にするのは山芋・長芋のそれ。

何しろパイ包み焼きはJ.C.の大好物。
ポール・ボキューズのバル・アン・クルート。
スズキを使ったものが有名だが
仔羊のマリア・カラス風、ビーフ・ウエリントン、
甲乙丙つけ難く、みんな大好きだ。

当店の秀作にも舌鼓をポンポン。
アーモンドクリーム、粒マスタード、
2種のソースがともにによろしく、存分に楽しめた。
ただ、和牛とうなぎのコラボという、
奇抜なアイデアが成功を収めているかと問われれば、
素直にイエスとは応え難く、多少の疑問が残る。
ハッキリ言って魚介と肉類の呉越同舟は好まない。

中華の八宝菜は気にならないのに
和食の寄せ鍋あたりで気になりだし、
極め付きはカーペットバッグ・ステーキだ。
豪州発祥のステーキは牛肉に大きな切れ目を入れ、
そこへ生ガキを詰め込んで焼き上げる。
コイツは食いたくないなァ。

いまや「bisous」のスペシャリテとなったこの料理。
接客係から聞いた出生の理由が面白い。
もともとはウナギではなく、
フォワグラを使っていたところ、
客からクレームが相次いだというのだ。

フォワグラがみな溶け出してしまい、
影もカタチもなくなるんだと―。
問題を解決する苦肉の策がコレ。
フォワグラ溶けてウナギに転ずる、
笑えるハナシでありました。

=おしまい=

「bisous 神楽坂」
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