2020年9月4日金曜日

第2474話 ナゼに中華でナシゴレン (その2)

台東区・小島の「幸楽」。
ラーメンと半ナシゴレンのセットを前にしている。
ラーメンのスープがもの足りない。
中太ちぢれの多加水麺も
歯による咀嚼を逃れようとするタイプ、好みではない。

どんぶりを半分食べ進んで、おもむろにナシゴレン。
ふむ、味付けは中辛にして甘みもある。
ジャポニカ米のナシともども
日本人向けにアレンジした痕跡が残り、
本場の味に比べるべくもナシ、ゴレン。

この料理に必須の調味料、
サンバルもほとんど使われていない。
仕上げの決め手、トラシ(蝦醤)にいたっては
まったく感じないから、いっそのこと、
ドライカレーかカレーピラフのほうがいいくらい。
先述の稲荷町「紅楽」が
週一ペースで日替わりセットに組み込む、
半カレーチャーハンに遠く及ばない。

ナシゴレンには苦い思い出がある。
1970年代半ば、ロンドンにいた頃の友人に
インドネシア人のイワンがいた。
どこで知り合ったか明確な記憶はないけれど、
当時のGFが彼はフランス人、
こちらはイタリア系フランス人だったから
女性同士が友だちだったのかもしれない。
いや、たぶんそうだろう。

或る日、イワンとウエストエンドへ映画を観に行った。
高倉健&ロバート・ミッチャム主演の「ザ・ヤクザ」だ。
月刊映画誌の表紙を飾っていたのは健サン。
長脇差(ドス)を抜きはらった着流し姿がキマッてた。
誌面の論評に
”ラストの血闘シーンは見逃すべからず”
そうあったのを覚えている。

映画を観ての帰り途。
当時、J.C.は盟友と共同で在留邦人向けの
小さなサロンを営んでおり、食事も提供していた。
空腹を満たすために立ち寄り、
ジャパニーズ・ナシゴレンといって五目炒飯を振るまった。
チャイニーズ・フライドライスとの違いを問われ、
似たようなものサと応じたっけ。

食べ始めた奴サン、二口、三口でフォークを置いたネ。
「こんなにスティッキー(ベタつく)なライスは食えない」
意想外のリアクションにとまどいながら
料理担当に焼きそばを作ってもらった。
日清食品だったかな? 袋麺のソース焼きそばを―。

ナシゴレンからミーゴレンに転ずると、
今度は歓んで食べるじゃないか。
完食後、ニッコリ笑ってひと言。
「このソースがイケるネ、ジャカルタにはない味だ」
「ほうら見ろ、日本をナメるなヨ」
楽しかった青春時代のひとコマでした。

「幸楽」
 東京都台東区小島2-1-3
 03-3866-5900