2020年9月30日水曜日

第2492話 東京湾に架かる虹

列車は島田、焼津、静岡と走り抜けてゆく。
食べ応えじゅうぶんの昼めしだったから
当分腹が空きそうにない。
沼津、三島あたりでも難しそうだ。
するってえと、小田原か平塚か—。
 
そうこうするうち茅ヶ崎、大船をを過ぎ、横浜に着いた。
何のこたあない首都圏内に戻ってきちゃった。
横浜でもよかったんだが久しぶりに川崎で飲もう。
この選択が思いもかけぬプレゼントをもたらしてくれる。
 
列車が横浜を離れてまもなく
ボンヤリ眺めていた車窓に突如として虹が現れた。
東京湾上に架かってなだらかな曲線を描く下弦の虹。
耳にこだまし始めた吉田拓郎の「旅の宿」に合わせて
黙読ならぬ、黙唱する自分がいた。
千秋楽の「君が代」でさえ、
心の中でご唱和するご時世だからネ。
 
♪   下弦の虹だったっけ 
  ひさしぶりだね 虹見るなんて ♪ 
 
そういやあ、上弦の虹ってのは見たことないな。
せっかくの光景なのに車内の乗客は誰一人気づいちゃいない。
スマフォいじくってるか寝てるかだもんな。
川崎に到着するまで虹が消えることはなかった。
僥倖と言うべし。
 
2年ぶりの川崎で候補は2軒。
大衆酒場「丸大ホール」or 「中華 成喜」。
前回立ち寄ったのもこの両者だった。
旅行中、静岡でそば屋のラーメンは食ったけど、
中華はなかったから「成喜」にするか—。
 
先日の鶴見「満洲園」もそうだったが
川崎もキリンの制空権下、「成喜」も例外ではない。
しかるに此処にはキリンはキリンでも
ハートランドの中瓶があるのだ。
トクトクトク・・グビグビ~ッ・・プッファ~!
 
つまみの焼き豚は厚めの肩ロースが5切れ。
ほどよい脂身に練り辛子がまたよく効く。
点心の焼売を通し、ビールをもう1本。
 
「成喜」の焼売は旨い。
きざみ玉ねぎのプツプツ感が”玉”らない。
焼売や餃子には肉々しさを求めないから
横浜の大手メーカーよりずっと好き。
3カン付けもちょうどよい。
 
そろそろ締めに取り掛かる。
五加皮酒(ウーカーピチュウ)のハイボールと
成喜特製太麺の焼きそばをお願い。
五加皮酒はウコギの根の皮を抽出した蒸留酒で
フランスやイタリアのリキュールに近い。
 
当店オススメの焼きそばは豚バラと野菜がタップリ。
ボリューム満点なうえに中華の太麺を好まぬため、
完食すること能わず。
グラスの底でカラカラ鳴ってる氷の音を聞きながら
この3日間を振り返り、短い旅はこれにて終了。
 
「中華 成喜」
 神奈川県川崎市川崎区小川町2-11
 044-244-4888