2022年6月30日木曜日

第3048話 タスマニア・ビーフのYAKINIKU

「ハチロー」をあとにして食後の散歩。
外苑西通りの交差点に出た。
右折して広尾駅方面へ。

昭和の匂いの残る広尾の商店街を歩く。
鮮魚店「福田屋」が
直営する食堂ともども健在だ。
一時期、閉じたと聞き及んでいたけれど。

有栖川宮記念公園にやって来た。
池畔を一周しようか・・・。
いや、その雨に在留外国人に人気のスーパー、
「NATIONAL AZABU」に立ち寄ろう。

ずいぶん久しぶりで10年は来ていない。
最後に訪れた際、ステーキ用の
冷凍バッファロー(アメリカ野牛)肉を
買うべきか見送るべきか、悩んだ記憶がよみがえる。

野牛の美味さは和牛を超えるものがあるからネ。
殊に深紅の赤身は最高だ。
でも、その後あちこち寄るので断念したのだった。

此度は CAPE GRIM PASTURE FED BEEF に興味津々。
何だ! そりや? ってか?
オーストラリア大陸の南東端に
チョコンとあるタスマニア島。
そのグリム岬の牧草地で飼育された牛の肉のこと。
GRASS FED の最高級品だという。

思い起こすのは1995年春。
アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスに
1週間ほど一人旅をした。
現地の料理に飽きてきて日本料理屋を訪れた。

すき焼きを独りつつきながら
日本人の店主との会話。
「牛肉が美味いですねェ」
「そうでしょう、牛は若くて柔らかい草を
 たっぷり食ってるからネ」
「若い草?」
「うん、アルファルファみたいなヤツ」
「ええ~っ、そんなのあるんすか?」
「アルよ、アルよ、アルゼンチン!」

そうか、こりゃタスマニアも試したい。
ただ、ステーキ用のサーロインとか
リブアイとかデカい切身ばかり。
すると数パック、
YAKINIKUのラベルを貼られた、
スライスがあり、これならと購入。

有栖川宮記念公園を散策し、
かつてのテレ朝通りをヒルズへ抜け、
けやき坂を下って麻布十番商店街。
前週に続いて牛肉をぶら下げてるため、
都営大江戸線に乗った。
御徒町の行きつけで生ビールを2杯飲んで帰ろう。

家に焼肉のタレはなく、塩・コショウのバタ焼き。
途中、生醤油・練辛子で味変。
部位はモモだろうか?
数日前のカイノミほどでなくとも実に美味。
オージー・ビーフ、侮り難し。

「NATIONAL AZABU」
 東京都港区南麻布4-5-2
 03-3442-3181

2022年6月29日水曜日

第3047話 こよなく晴れた青空を

JR田町駅から渋谷駅行きのバスに乗った。
降りたのは恵比寿3丁目。
昨年、この路線を走ったとき、
窓外に見かけた洋食店が気になった。 

おじゃますると1階は満卓。
2階に促され、靴を脱いで上がる。
ふすまを外し、三間ぶち抜きの広間に先客は一人。
距離をキープしてあぐらをかいた。

定食が①~⑦までズラリ並ぶ、
ランチメニューにただ一つ、
⑦番だけが魚フライ半分・カニクリコロ半分。
このセットを相盛り好きは即注した。
すると、お運びのオネバさん。
カニコロ売切れのため、⑦番が作れないんだと―。

仕方なく素っ気ないネーミングのカツ定食にスイッチ。
主役のカツは貧相にして味もイマイチ。
「サンデーモーニング」の張さんが健在なら
「カーツだ!」ー間違いないネ。
でも700円じゃ、強いことは言えない。

畳上の昼食はマネの草上の昼食みたいな刺激に欠けたが
ハム入りマカサラ、具だくさん味噌汁のおかげもあって
無事に食了、ビールも飲まずにネ。

オモテに出たら強烈な陽射し。
ここで流れ来たのが「長崎の鐘」。

♪   こよなく晴れた 青空を
  悲しと思う せつなさよ
  うねりの波の 人の世に
  はかなく生きる 野の花よ
  なぐさめ はげまし 長崎の
  ああ長崎の 鐘は鳴る   ♪
  (作詞:サトウハチロー)

名曲「長崎の鐘」はNHK朝の連続TV小説、
「エール」でクローズアップされ、
若い世代にもご存じの方が少なくあるまい。 
昭和24年にリリースされたオリジナルは
藤原一郎の歌唱だが
近年は安田祥子・由紀さおり姉妹も世に広い。

だけど、この日このとき、
J.C.の脳裏をかすめたのは
古関裕而のメロディーより
サトウハチローの歌詞だった。

何となれば、ほかでもない、
洋食店の名前が「ハチロー」だったんですから。

「ハチロー」
 東京都渋谷区恵比寿2-39-4
 03-3444-8600

2022年6月28日火曜日

第3046話 団子坂 エビやアワビの 舞踊り

ハイネケンの小瓶を飲んだ翌々日。
あらためて団子坂の「杏花楼」で炒飯アゲイン。
そのハナシの前にひと月さかのぼって
隣人・S合サンとの紹興酒・酌交である。
サンデー希望ということで
あまりうれしくないけど、快諾を装った。

ドライの中瓶を注ぎあって乾杯。
即刻、台湾産8年に切り替えた。
近隣の公園の池の鯉に食パンの耳をやるのが
週に数度の楽しみなんだとー。

いいでしょう、いいでしょう。
生き物好きに悪人はおらんからネ、ジッサイ。
好い人に間違いないことは判った。

最初に通した料理は車海老の塩味炒め。
菜譜には車海老とあったが厳密に言ったら
かつての大正海老だな、これは。
大正海老の名称はこの世から消えた。
ブラックかホワイトのタイガーだろう。
味付けよろしく、じゅうぶん楽しめた。

お次はちょいと奮発して土鍋鮑魚。
鮑魚はアワビである。
いわゆる醤油煮込みだが
白菜の量がアワビの10倍もあった。

まっ、原価が原価だから致し方ナシ。
でもネ、上湯(シャンタン)がしっかりしており、
紹興酒との相性もバッチリ。
酔うほどに、語るほどに
何だかノリノリになって来たヨ。

食べるより飲むほうに忙しい。
ボトルは空き、もう1本せがむ相方を押しとどめ、
リターン・トゥー・スーパードライ。
締めの料理はリクエストにゆだねると、
牛肉炒麺を所望された。

これは牛肉と青菜のあんかけに
コシ強き細麺の炒まりよろしく、
いいんでないかい?
エビやアワビの舞い踊りを披露されたのに
会計は1万数千円。
てなこってフラフラと一緒に帰った。

おっと、舞い戻って食べたタイトルロール。
注文の前に小姐に杏花炒飯とは何ぞや?
問うと、鴨のお肉が入っていますとの応答。
迷わず通す。

鴨スモーク、小エビ、銀杏、青ねぎ、
そして入れて欲しくない、カニカマと来たもんだ。
不味くはないけど、200円安い五目炒飯を
杏花炒飯と名付けて欲しかったのでした。

「杏花楼」
 東京都文京区千駄木2-33-8千駄木ビル2F
 03-3827-0721

2022年6月27日月曜日

第3045話 根津のオトメのハイネケン

千駄木・団子坂の本格中華料理店「杏花楼」。
牛めし「松屋」の2階にあるのは知っていたが
何となく階段を上りにくかった。
それでも3カ月ほど前。
上って五目湯麺を食べてみたら好かった。

同じ町に棲む友人を誘い、夜に再訪。
これまた満足し、当欄で紹介するつもりが
気がかりな一品あり。
全メニュー中、唯一のタイトルロール、
杏花炒飯を食べてから稿を上げる気になった。

或る雨の月曜日。
NYみたいに建物の外の鉄製階段を上がると休業。
盆暮れ年初以外は無休のハズだがなァ。

閉じてるドアをこじ開けたら犯罪。
引き返すと目の前のバスストップに
上野松坂屋行きのバスが停まった。
即乗り込んで隣り町の根津へ移動。
普段は歩く距離なれど、雨だからしょうがない。
泣く子と泣く空には勝てない。

上野桜木に続く善光寺坂の町中華「オトメ」。
実に久しぶりの訪問である。
此処はもともと「オトメパン」なるパン屋だった。

13年前、根津に移り住んだときは
すでに中華だったが
お運びをしていた孫娘が話してくれた。
「お爺ちゃんがいきなりパン屋を
 中華にしちゃったんです」ー恨めしそうに。
そうだよねェ、若い娘はパンだよなァ。

とにかく現在は中華。
それも町中華と本格中華の中華ん。
もとい、中間てな感じだ。
数日後「杏花楼」で杏華炒飯を食べるのに
頭も胃袋も炒飯モードでお願い。

メニューに中国の青島とオランダのハイネケンが
”中瓶”とあったので再確認すると、
オネエさんはキッパリ中瓶を宣言。
そうかなァ? 半信半疑でハイネケン発注。

ところが結局は薬局、小瓶が小じんまりと登場。
ハナから黒ラベルの中瓶にしときゃよかった。
彼女にその旨告げると
「あっ、そうですかァ」ー悪びれる様子すらない。
許す、許す、オジさんは許す。
別にネエちゃん、謝っちゃいないがネ。
でも、オネエさんがネエちゃんなってるから
やっぱり不満なんだな。

チャーシュー・玉子・かまぼこ・ねぎ入りの
チャーハンはごくごくフツー。
なんか昔よりオチた感じがする。
爺ちゃんはとっくに亡くなったろうが
パン屋に戻すのが賢明じゃないのかえ?

「オトメ」
 東京都文京区根津2-14-8
 03-3821-5422

2022年6月24日金曜日

第3044話 牛肉ぶら下げ 焼き鳥屋

若者行き交うというより
キャツらでごった返す、道玄坂を降りた。
JRと京王井の頭線を結ぶブリッジ下にバスターミナル。
悪名高きスクランブル交差点のすぐそばに
小田急線・経堂行きのバスが停まっていた。

渡りに舟ならぬ、ターミナルにバス。
おっと、こいつは前にも使ったフレーズだ。
どこかに行ければどこでもいい、乗りました。

30分ほど揺られたろうか―。
経堂の一つ手前、梅ヶ丘駅前に当着。
銀座コリドー街で行列の絶えない「美登利寿司」。
その本店がここにあるけど興味ナシ、

ただし、一つ気になる店があった。
いえ、飲食店ではなくてスーパーの「Y’s mart」。
ちょうど丸5年前。
近所の「いこま寿司」で昼食後、立ち寄った。

そのとき精肉売り場で発見したのが
豪州産ステーキ用カイノミだ。
ホタテ貝のように柔かいのでこう呼ばれるが
ヒレに近いバラ肉である。
キレイに肉割れしており、美味を確信。
買って帰って焼いて食べたら二重マル。

アレ、またないかな?
ありました、買いました。
値段は和牛ヒレの4分の1程度なのに
旨さ変わらず、お値打ちである。

ソレをぶら下げ、梅ヶ丘の町を散策。
飲める店とて見つからず、代田八幡、
世田谷代田を経て下北沢まで歩く。

軽くつまんで重く飲める場所はなかなかないネ。
そうだ! 思いついたのは焼き鳥「椿」。
正式名称は「やきとん 椿」らしいが
現在、焼きとんはなく焼き鳥ばかりだ。

代替わりして息子だろうか? おっそろしく不愛想。
これは親譲りだネ。
赤星中瓶を通し、
焼き物はハート(ハツ)とハツ元を塩で。

端々の焼け焦げの苦みが気になる。
真っ当な店はチョキチョキと剪定を施すがな。
逆に言うと、炭火焼きの香ばしさを
とことん味わえ! ってことかもネ。

赤星をお替わりし、みんなが飲んでる、
”焼酎”(実物はレモン割り)を重ね、
鳥もも正肉を追加した。
焦げに目をつぶれば、焼き鳥はみな旨い。
出色のハツ元はクニュクニュの食感がたまらん。

勘定はいくらだったかな?
千円札3枚でオツリをもらったような気がする。
下北から乗り換えなしの一直線、
われ棲む町へご帰還遊ばしましたとサ。

「Y’s mart 梅ヶ丘店」
 東京都世田谷区梅丘1-32-8
 03-5477-5711

「椿」
 東京都世田谷区北沢3-26-4
 03-3469-6879

2022年6月23日木曜日

第3043話 IKEAの階上レストラン

新宿西口バスターミナル。
王子・中野・永福町など、
バスはいろんなところに出ている。
目的地を決めていなかったため、
すぐ出発する渋谷行きに乗った。

電車のほうがずっと速いが
走るルートに興味があった。
最近は以前より、よくバスを利用する。
はとバスにでも乗ったみたいで
観光気分が味わえるからネ。

PARCOはずいぶん変わったなァ。
地下のレストラン街なんざ、ちょいとした迷路だ。
一番人気は博多から進出を果たしたハンバーグ店。
行列が半端じゃない。
ジビエ&昆虫食の専門店なんてのもある。
いずれにしろ若いカップルばかりでオッサンは退散。
老兵は死なず、ただ消え去るのみ、ってか?

IKEAに通りすがった。
ビルの一番上にはレストランがあるハズ。
先日、在スウェーデンの旧友と飲んだばかりだから
此処で出逢ったのも縁、上がってみよう。

欧米の学食さながらに明るい店内。
ここも若者中心だがPARCOほどではない。
カフェテリア方式で初めに料理を受け取り、
ちょいと離れたレジで支払う。

なぜかワインがあるのにビールはない。
ハハ~ン、飲んだくれのダラダラ飲み防止だネ。
殊に渋谷の若い連中に居座られたらエラいこっちゃ。

仏産シャルドネ、ルイ・エシェノワの
クォーターボトル(187ml)、
サーモンマリネ、ミートボールで900円。
おっそろしく安いわ。

ディル風味のサーモンには甘いディル・マスタード。
ミートボールにはマッシュドポテトとグリーンピース。
そして赤いリンゴンベリー・ジャム。
スウェーデンでは肉料理にジャムを添えるのが定番。
とりわけ本国でチェットブーラーと呼ばれる、
ミートボールに無くてはならないものなのだ。

久しぶりの味覚に舌鼓を打ったものの案の定、ガス欠。
近くにある恰好のスポットに直行した。
上野や浅草でお世話になっている「ほていちゃん」。
1階の立ち飲みカウンターで赤星大瓶をグイッグイ。

つまみは来れば頼むの馬刺しユッケ。
短冊に”旨さビヒーンなやつですよ”と来たもんだ。
これだけでじゅうぶんだが
ベビー渡り蟹の唐揚げを見つけ、看過できず追注。
何せ、初めて食べるもんなんでネ。

6匹も来たけど、脚の付け根が硬かったりして
同じ唐揚げなら沢蟹のほうがいいと思うな。
ピッタリ千円支払い、道玄坂を降りて往きました。

「スウェーデンレストラン IKEA 渋谷」 
 東京都渋谷区宇田川町24-1高木ビルディング7F
 057-001-3900

「ほていちゃん 渋谷道玄坂店」
 東京都渋谷区道玄坂2-9-10
 03-6433-7520

2022年6月22日水曜日

第3042話 食堂の かつ丼ズシリ 春日町

都営大江戸線の起点にして終点は光が丘。
都心から向かえば、その一つ手前が練馬春日町。
今日は昼めしを食べに来た。

食堂「まいこや」は地元の人気店ながら
営業時間が11~14時の3時間のみ。。
加えて近所に飲食店が少なく、
いつも立て混んでいるという。
噂を聞きつけ遠征した。

12時に入店すると、満席ではないが満卓。
四人掛けに一人が何卓かあるからネ。
でも、五目そばを食べてた爺ちゃんが席を立ち、
すんなりと着卓できた。

ビールはキリンラガーの大瓶だけで
アルコールはほかに置いてないようだ。
ベター・ザン・ナッシングで通す。
おろし生姜が乗った冷奴が付いてきた。
切り盛りはオバちゃんとオイちゃん二人きり。
ご夫婦のようでどちらも元気いっぱい。

かつ丼が一番人気と聞いたが
見たところ誰も食べていない。
代わりに黄色いカレーライス(500円)を何人もが。

本日の定食は
焼き魚ー鮭と玉子焼き(700円) 
豚のスタミナ焼き(750円)
どんぶりはかつ丼・親子・開化がみな600円だ。
迷いもせずにかつ丼をお願い。

待つこと5分少々。
わかめの味噌汁・きゅうり浅漬けを従えて
かつ丼がド~ンと登場した。
いや、存在感あるねェ。
左手にズシリときたヨ。

ごはん半分にしなかったのは
つゆとのバランスが崩れ、
味が濃くなる懸念があったため。
値段からすればカツのサイズもじゅうぶんで
玉子のとじ加減も上々。
でもやっぱりごはんを食べきれなかった。

焼き魚定食は12時半で売切れ。
しかし、かつ丼の注文がまったく入らないネ。
すると、食べ終わる頃に相席になったアンちゃん。
彼がかつ丼を頼んだヨ。

セルフじゃないのにみな下げ物を自分でしていく。
店と客に通うぬくもりが伝わってくる。
ごはんの残しをオバちゃんにあやまり、
1200円を支払って、ごちそうさまでした。

「まいこや」
 東京都練馬区春日町3-11-11
 03-3999-5722

2022年6月21日火曜日

第3041話 内房線に乗って

JR千葉駅で内房線に乗り換えた。
行く先は市原市・姉ヶ崎。
旧友・N田クンの自宅を訪問する手はずだ。
今日は重要なブツの引き取りが待っている。
おそらく本年のMVD(deal)となろう。

予定より30分も早く到着。
ノドを歓ばせるため、駅前を物色する。
いや、店が無いねェ。
線路の反対側は工業地帯で
働き手目当ての商売があるようだが
東口は非常に少ない。
それでも海鮮居酒屋と中国料理店を見つけた。

餃子でビールを飲もうと「明湘園」へ。
ドライの中瓶を通し、
念のためグランドメニューを開いたら
前菜三色盛合わせ(850円)があった。
写真に焼き豚、クラゲと
何かもう1種、映っている。
これなら腹にたまらなず、ちょうどいいや。

もう1種は棒々鶏だった。
よかったのはぶっといクラゲ。
コリコリの歯ざわりがなかなかだ。
逆にパサつく焼き豚は感心しなかった。

メニューに”台湾”の文字が散見され、
台湾料理店を謳わずとも
オーナーかシェフ、
あるいはオーナー兼シェフが
台湾出身者と推測される。

もう1本追加しようと思ったが
そうもしていられない。
そろそろ時間だ。
1370円を支払い、
リターン・トゥー・ザ・ステーション。
迎えてくれたN田の運転でお宅へ。

まずはブツの見定め。
五択を迷わずに即決した。
そうしておいて乾杯は冷たいビール。
あとは奥方の手際よい手料理にもてなされ、
昔話にひと花咲かせる。

明るいうちに再び彼の運転で駅へ。
デリケートなブツの運搬には気を使う。
ラッシュにもまれたくないから
今度は千葉駅で京成本線に乗り換えた。

都営浅草線直通の電車を浅草で降り、
そこから都バスで自宅そばへ。
運び屋の任務を無事に終え、
あらためて飲み直しの巻でありました。

「明湘園」
 千葉県市原市姉崎東1-12-14
 0436-62-7168

2022年6月20日月曜日

第3040話 バランスよろしき わんたんめん

ちばてつやに背中を押され、
チャーシューメンを食べた翌週。
今度は自発的に下調べの上、
ワンタンメンを食べに出かけた。

やって北のは、もとい、来たのは
北区・王子である。
「かいらく」は1935年の創業。
とてつもない歴史を誇っている。
二・二六事件より1年先なんだ。

知ってはいたが来たのは初めて。
ただいま改装中の王子のランドマーク、
「山田屋」のちょいと北にあった。

12時半に到着すると店外に二人のオジさん。
人気店だから列はもうちょい長いと踏んでいた。
これならどうってこたあないやネ。
と思っていたらオネバさんが
猛烈ダッシュで出て来たヨ。

これはイヤな予感。
麺かスープの売切れを告げられるんじゃないか?
そうではなかった。
「ご注文お伺いしてよろしいかしら?」
ホッとしながら
「ええ、わんたんめんを」

この店のメニューはらーめん、
もやしそばといった具合にひらがな表記。
ゴマみそらーめんのゴマのみカタカナだ。

ほとんど待たずに店内へ。
J.C.の後ろに並んでいて同時に入った、
オバさんの冷やし中華が先に来たけど、
まっ、いいか。

そこから5分以上経過してようやくわんたんめん。
肩ロースのチャーシューにシナチク。
わんたんは7つも入っていた。
中太ほぼ真っすぐの麺がシコシコといい感じ。
歯ごたえ、舌ざわり、のど越しと
三拍子揃って非の打ちどころナシ。

わんたんも同様に三拍子。
実にバランスがよろしい。
昭和のワンタンは溶けそうな皮に
小指の先、いや、小指の爪の先くらいの具が
辛うじて詰まってたもんなァ。
良品に出逢うことはまずなかった。

スープは昭和の香り漂い、シンプルな美味しさ。
こういうラーメンは安らぎをもたらす。
店名の「かいらく」は「快楽」かな?
いいえ、もっとずっとおだやかで
「渡鬼」の舞台、「幸楽」のイメージでした。

「かいらく」
 東京都北区王子2-28-9
 03-3914-7214

2022年6月17日金曜日

第3039話 ”鮫”という名のビストロ

散歩の途中、都営三田線は千石駅近く、
白山通りに面した店の前で足が停まった。
「スクアール・ビストロ」。
チョークでボードに書かれた、
日替わり定食に興味を持った。

常に魚&肉料理の合い盛りを提供するようだ。
イタリアンでいうところのピアット・ウニコだネ。
もっともあちらは
プリモ(パスタ)とセコンド(主菜)だけれど。

見入っていたら中から女性スタッフが現れた。
この日はブランチを取ったため、
昼は抜いて晩酌に備える予定。
その旨伝えてから訊ねてみた。

「スクアールってどういう意味ですか?」
「フランス語で鮫のことなんです」
「エッ、鮫? スゴい名前だな」
「ハイ、初代が始めた頃、
 映画の『ジョーズ』が評判だったようでー」

驚いたネ。
彼女と約束したもので翌週舞い戻った。
その日の日替わりは
スズキのソテー ブールブラン
豚肩ロースのポトフ風 きのこソース

5分と経たずに皿が運ばれる。
わかめスープとバゲット&バターを従えて。
バゲットは3片あり、剛毅だ。
感心したのがタップリのバター。
チャージする店が多いなか、これは素敵なサービス。
ハイ、優良店の太鼓判を押しました。

魚料理でもっとも好きなソースがブールブラン。
白バターを意味する、酸味がさわやかなソース。
肩ロースはえのきを使った白ワインソースだ。

ガルニテュールも実にふんだん。
多彩な野菜にコゴミを発見。
なぜかこんにゃくまでいたヨ。
カクテキ風の大根は
わかめスープともどもコリアンだ。
よって鮫クンは仏日韓のコラボといえる。

これで税込み1200円はお値打ち感満載。
毎週はムリでも、月に一度は顔を出そう。
よく通る道筋につき、
存在は認知していたが入店してよかった。
すべてはオモテに出て来てくれた、
オネバさんのおかげ。
メルシー・ボクー・マダム!

「スクアール・ビストロ」
 東京都文京区千石4-45-18
 03-3945-6821

2022年6月16日木曜日

第3038話 わが青春のオードリー!

オードリー・ヘプバーンが亡くなって29年。
彼女の生年も1929年、没年は1993年。
かつての日比谷映画街、デートの定番だった。
今、そこにある日比谷シャンテで
「オードリー・ヘプバーン」(原題:AUDLEY)を観た。

彼女の長男、ショーン・オードリー・ファーラーが
多くを語るドキュメンタリーは
それなりに楽しめるものの、デキには感心しない。

愛息が関わる作品だから非難はしなくとも
彼女の生き方、性格からして歓びはすまい。
悲しむハズだ。
草葉の陰で悲嘆にくれていよう。
映画は私生活を暴露してるからネ、
日本の低俗な女性週刊誌さながらに。

オードリーは好きな女優の一番手。
映画館に通い詰めた中学・高校時代に
彼女の作品はほとんど観ている。

それでは例によって
マイ・ベスト5を紹介したい。
各作品の監督と相手役、そして寸評を添えまして。

① シャレード 
  スタンリー・ドーネン ケーリー・グラント
  この名画に出逢えてしあわせ
② 暗くなるまで待って
  テレンス・ヤング アラン・アーキン
  守ってあげたいオードリー!
③ ローマの休日
  ウィリアム・ワイラー グレゴリー・ペック
  嫌いな人はおらんでしょ
④ 昼下りの情事
 ビリー・ワイルダー ゲイリー・クーパー
 大人になってようやく目からウロコ
⑤ ティファニーで朝食を
  ブレイク・エドワーズ ジョージ・ペパード
  NYに棲んだら必ずハマります
次点① 噂の二人
  ウィリアム・ワイラー シャーリー・マクレーン
  結末に悲しみつのれども
次点② パリの恋人
  スタンリー・ドーネン フレッド・アステア
  ダンスも素敵なファニー・フェイス

どうしてもオミットできず、次点は二つ。

洋画界にあって
唯一無二の輝きを放つ女優だった。
モンロー? テイラー? 目じゃないネ。
あまり知られてないが
キム・ノヴァクは二番目に好きだけど。

2022年6月15日水曜日

第3037話 杉並の山から山へと (その2)

浜田山から高井戸までは井の頭線沿い。
続いて神田川を見下ろしつつ、富士見ヶ丘。
そして二つ目の山、久我山に到達した。
線路の両側を丹念に歩き、土地勘を植えつける。

この日は久我山ホタル祭り当日。
家族連れによる人波が
普段の倍に膨れ上がっているらしい。
武蔵野の静かな町に活気が訪れていた。

久我山に来るのは2度目だが
早や15年の月日が流れた。
月日は流れても町の中央を流れる、
神田川の水景に見覚えがあった。

この町のイメージは
國學院久我山と岩崎通信機によるところ大。
前者は一般的に各種スポーツ。
後者は個人的に外為市場。
ディーラーとブローカーの間をつなぐのは
岩通が敷く電話のホットラインなのだ。
マネーブローカー時代はお世話になった。

17時を回って駅南側の坂道、岩通通りを上がる。
目当ての「やきとんあかね」の店頭が騒がしい。
持ち帰りのパックが飛ぶように売れていた。
売り子の女性に店内営業の有無を確かめたら
やってはいるけど、店頭で調達し、
それを中で召し上がれとのこと。

店内に先客はゼロ。
カウンターに陣を取り、赤星大瓶を発注する。
続けざまにコップ2杯をあおり、
一息ついてオモテに戻った。

購入可能なのは2種のパックのみ。
5本入り豚ハラミ、2本入り鳥つくねで
ザッツ・オール。
いくら何でも同じモンを5本は食えない。
消去法で食べたくもないつくねを―。

品書きは焼きとん13種と焼き鳥3種だが
本日は限られた部位しか仕入れておらず、
魚介系など、ほかのつまみ類は全滅。
それでも引っ切りなしに押し寄せる買い物客に
焼くほうが追いつかない。

ハートランドの中瓶に切り替え、
すぐに飲み干して早々に退散した。
今日はベトナム小瓶、アサヒ中ジョッキ、
サッポロ大瓶、キリン中瓶と
ヴァリエーション豊かなビールシリーズ。

都心からはるか遠く、
杉並の二つの山を踏破して
収穫は4種のビールだけでした。
まっ、いいか。

「やきとんあかね」
 東京都杉並区久我山2-12-7
 03-5941-6634

2022年6月14日火曜日

第3036話 杉並の山から山へと (その1) 

京王井の頭線を降りたのは杉並区・浜田山。
この1月、当地のベトナム料理店を目指したものの、
ランチ営業に間に合いそうもなく断念。
永福町で途中下車し、数十年ぶりに
レジェンド「大勝軒」のラーメンを食べたのだった。

標的を仕留めるのに半年近く費やしてしまった。
本日の狙いは杉並区内の二つの”山”。
登山するんじゃないが一つ目の山が浜田山である。

「シクロ」はかつてたびたびおジャマした、
町中華の名店「しむら」のはす向かいにあった。
開店が7年前じゃ気づかぬハズだヨ、
当時はまだ無かったんだから。

ベトナムビールの代表格、333の小瓶を―。
これはバーバーバーと音ずる。
タイのシンハ、インドのタージほどではないが
チョッピリ、クセがある。
名前から333ml入りかと思っていたら355mlだった。

メニューボードをつぶさに眺める。
品揃え多彩につき、迷うものの、
シクロコンビでいくことにした。
フォー+カレーorチャーハンのセットは
すべてハーフポーションだ。

半人前づつでも2皿は量が心配だけれど、
カウンターに隣り合わせたカップルも
ハーフ&ハーフを楽しんでおり、
チラリのぞくとチャーハンなど少なく、
町中華のクォーターサイズ。
これならだいじょうぶだぁ!

鶏フォー&Newミンカレーのコンビをお願い。
カレーはシクロとNewミンの2種あり、
その違いが判らぬままに注文を通した。

当たり前だがフォーはアッサリ。
鶏肉のほかにもやし・小松菜・小ねぎ。
カレーはチキンのココナッツ仕立てで
玉ねぎ・にんじん・じゃが芋のいわゆる、
おうちカレー御三家とレモングラス。
別段、特徴はなかった。

ただ、驚いたのはカレーを一匙、
口元に運び、333を追いかけたら
独特のクセが吹き飛んで
相性の好さを見せつける。
現地のビールには現地の料理が一番だネ。

小瓶1本で足りるハズはなく、
ドライの中ジョッキを重ね、
会計は2100円也。
14時近いのに地元の若者が続々と来店。
週末ということもあり、繁盛していた。

さて、うららかな陽光の下、
二つ目の山に向かい、進路を西に取りました。

「シクロ」
 東京都杉並区浜田山2-18-1
 03-5317-5566

2022年6月13日月曜日

第3035話 背中を押した ちばてつや

 久々に活気ある道筋を歩きたく思い、
江東区の砂町銀座にやって来た。
そろそろランチにしよう。
通り中ほどの「銀座ホール」は何度か利用した。
居心地は良いものの、
料理がイマイチだったので今回は見送り。

その東寄りに「永昌園」なる中国料理店。
店頭のメニューと写真を見る限り、
そこそこ本格的である。
チャーシューメンに目が留まった。

実はこの数日前、
ビッグコミックをパラパラやった。
イの一番に目を通すのは「ゴルゴ13」。
連載開始以来の長いつき合いだ。

そして二番目が巻末の「ひねもすのたり日記」。
ちばてつやが日常雑感を描いたものだ。
その回は彼がゴルフを始めた頃のエピソードで
ナイスショットの秘訣は”チャー・シュー・メン”。
このリズムがいいんだそうだ。

チャーで始動し、シューでトップ、
メンで振り下ろす。
ゴルフ漫画「あした天気になあれ」で紹介されたが
リアルタイムで読んだ。

彼の作品では推しも推されもせぬ代表作、
「あしたのジョー」より、
キャリア初期の「ちかいの魔球」と
「紫電改のタカ」が好きなのだ。
あとは「のたり松太郎」だネ、やっぱり。

てなこって、ちば先生に背中を押され、
今日の昼めしはチャーシューメンでキマリ。
写真をよくよく見ると、
焼き豚を彩る薄っすらピンクの紅麹がいいねェ。

この春は告別式に墓参りと、
黒い縁取り系に見舞われた。
気の滅入りを解消するため、
赤い縁取り系に飢えていたこともあろう。

ドンブリにはやや厚めの肩ロースが5枚。
あとはシナチクと小松菜。
しなやかな麺にスープがやさしい美味しさ。
酢を回しかけてさらに好くなり、
ほとんど飲み干すに至る。

ドライの中瓶と合わせ、1315円を支払い、
オモテに出ると店頭で
シャーピン(中華風おやき)を焼いていた小姐が
「ありがとうございましたァ!」
「おう、精が出るネ、ごちそうさま」

もう一度、砂町銀座を往ったり来たりしてから
どこぞに移動するとしましょう。

「永昌園」
 東京都江東区北砂3-36-19
 03-3649-3738

2022年6月10日金曜日

第3034話 盟友・フロム・SH (その5)

銀座8丁目の銀座ナイン。
その2階の「かに道楽」に上がっている。
かつて此処には汐留川が流れていた。
長嶋茂雄がジャイアンツに入団した年に
神戸一郎が歌った「銀座九丁目水の上」、
その舞台である。

さて、毛蟹。
1万円と3万円のギャップに
たじろいだものの、応答しなければー。
「そういうふうに訊かれたら 
 1万円のをお願いしちゃうなァ」
「ハイ、かしこまりました」
いえ、こちらもかしこまってんだけどネ。

やはりコンパクトなのが出て来た。
しかし、ちゃんと毛蟹の香りと味はした。
3万円のは相当なサイズだったろう。
食べ足りないので焼き蟹を追加。
今度はズワイ蟹の脚である。
二人の評判はこちらが良かった。

蟹を前にしても誰一人無口にならず、
笑いの絶えぬ楽しい宴だ。
今宵はまだ終らない。
流れたのは日比谷のガード下。
さっきは首都高速の下だったが
今度はJR直下である。

居酒屋「八起」とは半世紀近いつき合い。
1975年夏、ロンドンから帰国したJ.C.は
人生初のサラリーマン生活。
勤め先の免税店がすぐそばにあったのだ。

以前はよく通った「八起」も
1997年秋、NYから帰国後は足が遠のいた。
ビールの銘柄が合わなくてネ。
昔はこだわらずに何でも飲んでいたんだ。

だからというワケでもないが
3人揃って黒ホッピー。
つまみは煮込みを3人前。
個人的に東京三大煮込みの一翼を
担わせている「八起」である。

あとは焼きとん盛合わせと名物のチャーメン。
これは豚の脳みそ入りもやし炒めだ。
ホッピーを何杯かお替りし、
ようやくお開きとなった。

以前よりひんぱんに帰国するヨと語るS水に
われわれの受け入れ体勢も万全。
なんだかんだ飲んだくれた3匹のオッサンは
3軒回らないと、どうにも収まらないのでした。

=おしまい=

「かに道楽 銀座八丁目店」
 東京都中央区銀座8-7
 ギンザナイン2号館2F
 03-3572-7272

「八起」
 東京都千代田区有楽町2-1-21 2F
 03-3591-2778

2022年6月9日木曜日

第3033話 盟友・フロム・SH (その4)

 ♪  鞄ひとつで 降りたあの駅
  アカシヤが 咲いていた
  恋のうす着に 季節ながれて
  札幌は 冬模様
  北へ北へと たずねびと迷いびと
  いくつ数えた なみだの月日
  噂ひろって 愛をつないで
  泣いてる わたし   ♪
    (作詞:池田充男)

キム・ヨンジャの「北の雪虫」は2012年のリリース。
翌年にロス・プリモスがカバーした。
上記の歌詞はその2番。

それはそれとして中ジョッキを3杯重ね、
小姐にバイバイ、ビルの階段を上がった。
遠来のS水がオゴると言ったので
次は日本ならではの美味いものを
N田とJ.C.が、てなことになり、
リクエストを訊いたら海鮮か和牛と来たもんだ。

足が向いているのは銀座。
此処で鮨やステーキとなったら
財布の紐がブチ切れる。
この2ジャンルは青空天井だからネ。

蟹好きのJ.Cが「蟹は?」と振ると
奴サン、乗ってきた。
銀座ナインの「かに道楽」へ直行の巻。

本店の動くかに看板は道頓堀の代名詞。
同じく動くかにが居た、
吾妻橋店は不振を囲い、閉業して久しい。
先日、西新宿5丁目店を通りすがると
かにが元気に脚を動かしていた。
この銀座8丁目店は元々看板の設置がない。

受付にて
「ご予約が立て込んでおりまして
 2時間まででしたらお席がご用意ができます」
長居はしないので異存はない。

それにしても暴騰している蟹クンたち。
当然、メニューに反映されている。
こんな高級食材に予約が殺到しているとは
客足の戻りに驚いたヨ、ジッサイ。

ビールを生から瓶にスイッチ。
S水はハイボール、N田は日本酒の常温。
本日二度目のグラスを合わせ、
毛蟹を1パイ茹でてもらうことに。

しばらくして戻って来た若い中居サン。
「1万円と3万円がございますが・・・」
投げかけられて一瞬、返事に詰まってしまう。

=つづく=

「龍龍(ロンロン)」
 東京都港区新橋2-16-1ニュー新橋ビルB1
 03-3502-0097

2022年6月8日水曜日

第3032話 盟友・フロム・SH (その3)

一夜明け、朝めしに何か食ったかな?
覚えちゃいない。
ロンドンへはヒッチハイクだ。
さいわい、さほど時間を費やさずに
若い運チャンのトラックが停まり、
ロンドン郊外まで送ってくれた。

それから数日は仕事探しの日々。
ピジョンキラー・マルティンが皿を洗う、
「Wimpy」に職を得たのだった。
(第2922話参照)

ちなみにナイロビを離れる前。
アミン将軍の圧政から解放されたばかりの隣国、
ウガンダの首都カンパラで
久しぶりのハンバーガーを頬張ったのが
当地にあった「Wimpy」。

スタッフに英国娘が居り、
「ウインピーって
 あのピータンパンに出てくる妖精?」
「フフフ、それはウェンディ、だけどウェンディは
 ピーターパンにあこがれる女の子で
 妖精はティンカー・ベルよ」
「ふ~ん、そうかァ、じゃ、ウインピーは?」
「ポパイに出てくるハンバーガー好きの小父さん」

その「Wimpy」に窮地を救われるとは―。
これを単なる偶然と思えぬ、いや、思える自分がいた。
一方、今世界を席巻する「スターバックス」は
メルヴィルの「白鯨」に登場する、
コーヒー好きの航海士だ。
スタバ創業者の脳裏の片隅に
ウインピーがあったのは間違いなかろう。

前フリが長くなっので
ハナシをオッサンズ・タウン、新橋に戻しましょう。
3匹のオッサンはSL広場の真ん前、
ニュー新橋ビルの地下に降りて行った。

この日、1時間近く先乗りしたJ.C.は
1軒め酒場の目星をつけてある。
「龍龍(ロンロン)」という、
和中折衷の飲み処だ。

入店を誘われた女性の感じが好かったからネ。
大陸系の訛りがあるがアチラ系にしては
言葉や物腰が柔らかく、目元も涼やかだった。

友だちを引き連れて舞い戻ると
歓んだ彼女、ていねいな接客で応える。
われわれは中ジョッキをガッチンコ。
一人一品は取ろうと通したのは
空心菜炒め・海老マヨ・麻婆豆腐。

訊けば、小姐は大連生まれ。
大連の第一感は札幌同様にアカシアだ。
今日は裕次郎や西田佐知子の代わりに
キム・ヨンジャの歌声が響いてきた。

=つづく=

2022年6月7日火曜日

第3031話 盟友・フロム・SH (その2)

翌朝、パリに着いたわれわれ。
12時に凱旋門の真下へ。
しかし、互いに初めてではないパリ。
主だった観光スポットはすでに行きつくしていた。

何か面白いことないかなァ・・・。
このとき、どちらからともなく
(そうだ、シェルブールに行こう!)
二人はフランスのミュージカル映画、
「シェルブールの雨傘」(1964)が大好きなのでネ。
カトリーヌ・ドヌーヴの可愛らしさもさることながら
全編に流れるミシェル・ルグランの音楽に魅了された。

でもって行きました。
行きましたが小さな港町を半日足らずでめぐり終えた。
歩き回る時間より
カフェでつぶす時間のほうが長かった。
何のゲームだったか、サイコロを転がしたりしてネ。

早いとこイギリスに帰ろうや。
サウサンプトン行きフェリーの切符を買った。
買いはしたんだが
その切符をどこぞに落としちまった。
いや、血まなこになって探した、探した。
でも、こういうモノは出て来た験しがない。

懐中の全財産は残り少なく、
肩を落として港の切符売り場に舞い戻る。
すると、窓口のマダムが言うことにゃ、
「あら、あなたたち、覚えてるわ。
 エッ、落としちゃったの?
 いいわ、再発行してあげる」

彼女の笑顔が天使に
いえ、ちょいとトウが立ってるから女神に見えた。
(パルドン・マダム!)
まさに捨てる神あらば、拾う女神あり。
ドヌーヴより美しく輝いていたのでした。

船の甲板では居合わせた、
ポルトガルの娘たちと楽しく談笑。
ポルトガルの洗濯女ならぬ女子学生である。
そうこうするうち、サウサンプトンの港に着いた。

彼女たちに手を振るまではよかったけれど、
そこからが大変、状況は天国から地獄へ真っ逆さま。
われらは入国管理官の質問攻めにあったのでした。
何か訊かれてるというよりトッチメられてる感じだ。

船客はすべて降り去り、
二人が下船したのは最後の最後。
おまけに管理官が旅券に走らせたペンが
無情にも”Two weeks"と記してあった。
それはないぜ、セニョール!
6ヵ月の査証がホンの数日でたった2週間にー。
こんなハズじゃなかったぜい。

まっ、金が無いから仕方がない。
地獄の沙汰も金次第というが
金が無ければ地獄は地獄のまんまである。

嘆いてばかりもいられない。
安宿を求めて夜の港町をさまよう。
ようやく見つけたホテルのベッドに
身を横たえたのは午前2時過ぎでしたとサ。

=つづく=

2022年6月6日月曜日

第3030話 盟友・フロム・SH (その1)

 盟友・S水クンがストックホルムから
一時帰国してきた。
彼は旧友にして級友でもある。
同様のN田クンを加え、
3匹のオッサンは新橋駅前SL広場に集結。
新橋はオッサンズ・タウンですからネ。

S水とは9年ぶり、N田とは3週ぶり。
海外組と国内組では自ずと差が出る。
殊にここ2年はたとえ望郷の念つのろうとも
思いのままにならなかったからなァ。

実はS水のスウェーデン永住の種を蒔いたのはJ.C.。
1971年、ソ連船に乗って横浜港を離れたとき、
大桟橋で見送ってくれた彼は
(よお~し、次は俺の番だ!)
心に決めたのだった。

その2年後の春、S水は欧州に旅立つ。
秋には再び日本を出るJ.C.と
11月1日正午、パリ・凱旋門の下で
再会を約してー。

すでにヨーロッパ周遊を経験したJ.C.。
此度はアフリカを一めぐりしたのち、
ケニア・ナイロビから空路ロンドンへ。
再会前夜の10月31日。
パリに向かい、
夜行列車に乗り込んだビクトリア駅。

途中、ドーバーでフェリーに乗り換え。
列車はそのまま船腹に、
乗客はラウンジに移動する。
ドーバー駅のプラットフォームを
イミグレーションへ歩く背後から
「オカザワ~、オカザワ~!」の叫び声。
振り向けば、S水が走って来るじゃないかー。
こんな偶然もあるんだネ。

てっきりヤツはストックホルムから
来るもんだと判断していた。
相手は相手でこちらは
モロッコ、スペイン経由と決めつけていた。
それが英国内でバッタリなんてー。

さあ、フランスへ入国する前に二人は考えた。
互いにしばらくロンドンで暮らす腹積もり。
それならあえてパリに行かずともー。
当方は数日前にヒースローで
6カ月のビザを取得している。
相方も相応の滞在許可を得ていた。
でも思案の末に出国しました。

意見の一致をみたのは
(半年前に約束した、その日、
 その時刻、その場所に二人で立とうぜ)
このことであった。
まさかこの判断が災いの元になろうとは
夢にも思わずに―。

=つづく=

2022年6月3日金曜日

第3029話 対馬のあなごを食べ比べ

 日頃から新聞に折り込まれたチラシ類には
一目もくれず、即刻、反故としているが
その朝は虫が報らせてくれたのだろう。
ある1枚に目がとまった。
成城石井の長崎離島フェアである。

新上五島・五島・壱岐・対馬の物産展だ。
中でも強く惹かれたのが対馬産の黄金あなご。
折詰は2種類あって
① 黄金あなご寿司~煮付・炙り・刺身の食べ比べ
② 黄金あなごづくし~煮付・炙り・刺身・穴胡巻
目を奪われたのは刺身であった。

この国では穴子の刺身がほとんど食されない。
習慣がないのだ。
ところがお隣りの韓国はメチャクチャ食べる。

もう30年も前になるが
釜山の海岸沿いの屋台で初めて食べた。
いくつも並ぶ屋台が軒並み穴子刺しを
提供しているのには度肝を抜かれたものだ。
目の前の対馬付近で大量に獲れたものだろう。

思い起こすと、日本で食べた記憶は
帝国ホテル内の「鮨源」、
根津のカウンター割烹「田すけ」、
この2軒のみである。

成城石井の店舗リストをチェックする。
ハナから成城本店に出向くつもりはない。
近いのはJR上野駅構内だがフェアを扱っていない。
大型の10店に限られる。
みな遠いなか、東京ドームラクーア店だけが近い。

数日前に松戸の「大八北珍」で
あなご丼を食べたばかりなのにもうまた食べたい。
往きはテクテク歩いた。

目当ての黄金あなごはともに税込み1394円。
買い求めた食べ比べは3種3カンの計9カン。
ついでに化学調味料不使用の
高野豆腐&がんもどき煮を晩酌用に。
帰りは文京区のコミュニティバス・Bーぐる。

羽田・野島・松島など、
国内の名だたる産地に比べ、
対馬産はかなり大ぶりのハズだが
そうでもなかった。

生わさびをすりおろして
「いや、美味いねェ」
タモリの本麒麟みたいなモンだねェ。
3種、甲乙丙つけ難いが
やはり希少なぶん、生の刺身が一番。
有り難味が違う。

フェアは6/9(木)まで。
都内では本店のほか、
大井町・池尻大橋・自由が丘・
等々力・自由が丘・浜田山店などで
開催中につき、惹かれた方はどうぞ。

かく言うJ.C.、翌々日には
また買いに行っちゃいました。
期間中、なんかもう1回行きそう。

「成城石井 東京ドームラクーア店」
 東京都文京区春日1-1-1
 03-5805-0032

2022年6月2日木曜日

第3028話 百反通りの さんごセット

品川区・戸越となれば、第一感は戸越銀座。
全国に数多ある、ナントカ銀座のハシリだ。
長~い戸越銀座の東側、
その北をほぼ平行して走るのが百反通り。

かつて段差のあった道筋は百段通りと呼ばれたが
段々をスロープに替えて百反通りとなった。
以前は隆盛を誇った商店街も
今じゃどちらかと言うと住宅街。
中小のマンションがズラリ立ち並んでいる。

JR大崎駅に近い、
通りの入口に近づくと飲食店がちらほら。
つけめんの超人気店「六厘舎」発祥の地は此処だ。
明電舎のおひざ元だから六厘舎にしたのかな?

今回、おジャマしたのは
百反通り中ほどの「さんご」。
夜は様相を異にしようが
酒場より食堂という印象、まっ、昼だしネ。
店主夫婦と息子夫婦(?)にバイトの娘。
5人体制である。

ビールはキリンラガー中瓶のみ、生はない。
見送らずに所望した。
おびただしい数の定食類が並ぶが
メインの献立は4通り。

さんごセット(ハンバーグ・べーコンエッグ)
Aセット(ポークソテー・あじフライ)
Bセット(鳥唐揚げ・串かつ)
フライ盛りセット(海老・いか・ホタテ)

揚げ物が幅を利かせている。
自分で組合わせを択べるなら
ポークソテー&いかフライの気分だった。
最初で最後になるやも知れず、
タイトルロールのさんごセットを
半ライスで発注に及ぶ。

ハンバーグはごくフツー。
デミグラスがやや緩くパンチに欠けた。
ベーコンエッグは玉子の状態がいい感じ。
キャベツ・レタス・ケチャスパが添えられ、
味噌汁はわかめで新香はナシ。

店内に独り取り残され、
バイトのコの賄いが用意されたりもしたので
ピッチを速めて食べ終える。
お勘定は1380円也。

百反通りを突き抜け、大崎駅方面への曲がり角。
長い行列が近隣に迷惑を掛けたため、
閉店を余儀なくされた「六厘舎」が
角にできた大崎ウィズシティに入居していた。

様子を見ようと思ったものの、やめといた。
以前も今後も利用するつもりがないからネ。
つけめんには関わりのねェ、あっしでござんす。

「さんご」
 東京都品川区西品川3-6-3
 03-3491-9514

2022年6月1日水曜日

第3027話 かつて七年 棲んだ町 (その2)

 松戸市・上本郷は思い出詰まる町。
まさか此処でランチ難民になるとは思わなんだ。
4年ぶりに訪れた「大八北珍」だったが
申し訳なさそうなオネエさんの
「またお待ちしております」ー
言葉を背後に聞きながら、立ち去るわれわれ。

すると、再び背後から
「お客さまァ! 失礼しました、どうぞォ」ー
オネエさんの呼びかけに舞い戻ると
入口で見覚えのある女将さんのお出迎え。
「すみません、2時に閉めればよかったんですけど」ー
時刻は13時55分、いずれにせよ助かった。

この町きっての繁盛店はこんな時間でもほぼ満席。
ノドに染み入る献杯の麦酒は筆舌につくしがたい。
いろいろ取り分けていただいたが
あれっ? 此処のラーメン、こんなに美味かった?
ケレン味のない昭和の中華そばである。

かきニラ炒めもすばらしい。
もやしだらけのニラレバが珍しくないなか、
ニラがタップリ、かきはプックリ。
以前はなかった、あなご丼がまた秀逸。
カツ丼のカツの代わりに煮穴子使用の玉子とじで
添えられた、きゅうり&大根浅漬けもハイレベル。

昼の閉店間際で長居できなくともガス注入は完璧だ。
中瓶3本は飲み切ったんじゃないかな。
帰り際、女将さんと話す機会に恵まれた。
彼女と言葉を交わすのは
シンガポールに赴任する前だから40年ぶり。
もちろん向こうは覚えちゃいない。

「あの頃、女将さん、
 赤ちゃんをおんぶしたまま
 髪振り乱して頑張ってましたよネ?」
「あら、イヤだ、アハハ、あのコです」
「ええっ! こんなに大きくなっちゃって」
165cmの60kg近くはありそうだ。

「今、私、こんな顔してるんです」
言いながらマスクをアゴまで下げる女将さん。
思わず吹き出しちまったヨ。
いえ、可笑しいのは顔じゃなくて、その仕草。
こういうことする人、初めて見たヨ。
店主も出て来てくれ、しばし歓談。

ここんとこ体調のすぐれない彼女は
日医大病院に通ってると言う。
何だヨ、われ棲む町じゃないか―。
向こうもビックリしている。
これを単なる偶然とは思えない自分がいた。

開店当時の「大八北珍」は近くの裏通りにあった。
それが目抜き通りに移って繁栄を極めている。
彼女の奮闘なくしてこの成功はあり得ない。
あなご丼はじめ、メニューの発案も
すべて女将の担当だという。

これからずっと、墓参の帰りは当店にキマリである。

「大八北珍」
 千葉県松戸市仲井町3-13
 047-368-1609