翌朝、パリに着いたわれわれ。
12時に凱旋門の真下へ。
しかし、互いに初めてではないパリ。
主だった観光スポットはすでに行きつくしていた。
何か面白いことないかなァ・・・。
このとき、どちらからともなく
(そうだ、シェルブールに行こう!)
二人はフランスのミュージカル映画、
「シェルブールの雨傘」(1964)が大好きなのでネ。
カトリーヌ・ドヌーヴの可愛らしさもさることながら
全編に流れるミシェル・ルグランの音楽に魅了された。
でもって行きました。
行きましたが小さな港町を半日足らずでめぐり終えた。
歩き回る時間より
カフェでつぶす時間のほうが長かった。
何のゲームだったか、サイコロを転がしたりしてネ。
早いとこイギリスに帰ろうや。
サウサンプトン行きフェリーの切符を買った。
買いはしたんだが
その切符をどこぞに落としちまった。
いや、血まなこになって探した、探した。
でも、こういうモノは出て来た験しがない。
懐中の全財産は残り少なく、
肩を落として港の切符売り場に舞い戻る。
すると、窓口のマダムが言うことにゃ、
「あら、あなたたち、覚えてるわ。
エッ、落としちゃったの?
いいわ、再発行してあげる」
彼女の笑顔が天使に
いえ、ちょいとトウが立ってるから女神に見えた。
(パルドン・マダム!)
まさに捨てる神あらば、拾う女神あり。
ドヌーヴより美しく輝いていたのでした。
船の甲板では居合わせた、
ポルトガルの娘たちと楽しく談笑。
ポルトガルの洗濯女ならぬ女子学生である。
そうこうするうち、サウサンプトンの港に着いた。
彼女たちに手を振るまではよかったけれど、
そこからが大変、状況は天国から地獄へ真っ逆さま。
われらは入国管理官の質問攻めにあったのでした。
何か訊かれてるというよりトッチメられてる感じだ。
船客はすべて降り去り、
二人が下船したのは最後の最後。
おまけに管理官が旅券に走らせたペンが
無情にも”Two weeks"と記してあった。
それはないぜ、セニョール!
6ヵ月の査証がホンの数日でたった2週間にー。
こんなハズじゃなかったぜい。
まっ、金が無いから仕方がない。
地獄の沙汰も金次第というが
金が無ければ地獄は地獄のまんまである。
嘆いてばかりもいられない。
安宿を求めて夜の港町をさまよう。
ようやく見つけたホテルのベッドに
身を横たえたのは午前2時過ぎでしたとサ。
=つづく=