2022年6月1日水曜日

第3027話 かつて七年 棲んだ町 (その2)

 松戸市・上本郷は思い出詰まる町。
まさか此処でランチ難民になるとは思わなんだ。
4年ぶりに訪れた「大八北珍」だったが
申し訳なさそうなオネエさんの
「またお待ちしております」ー
言葉を背後に聞きながら、立ち去るわれわれ。

すると、再び背後から
「お客さまァ! 失礼しました、どうぞォ」ー
オネエさんの呼びかけに舞い戻ると
入口で見覚えのある女将さんのお出迎え。
「すみません、2時に閉めればよかったんですけど」ー
時刻は13時55分、いずれにせよ助かった。

この町きっての繁盛店はこんな時間でもほぼ満席。
ノドに染み入る献杯の麦酒は筆舌につくしがたい。
いろいろ取り分けていただいたが
あれっ? 此処のラーメン、こんなに美味かった?
ケレン味のない昭和の中華そばである。

かきニラ炒めもすばらしい。
もやしだらけのニラレバが珍しくないなか、
ニラがタップリ、かきはプックリ。
以前はなかった、あなご丼がまた秀逸。
カツ丼のカツの代わりに煮穴子使用の玉子とじで
添えられた、きゅうり&大根浅漬けもハイレベル。

昼の閉店間際で長居できなくともガス注入は完璧だ。
中瓶3本は飲み切ったんじゃないかな。
帰り際、女将さんと話す機会に恵まれた。
彼女と言葉を交わすのは
シンガポールに赴任する前だから40年ぶり。
もちろん向こうは覚えちゃいない。

「あの頃、女将さん、
 赤ちゃんをおんぶしたまま
 髪振り乱して頑張ってましたよネ?」
「あら、イヤだ、アハハ、あのコです」
「ええっ! こんなに大きくなっちゃって」
165cmの60kg近くはありそうだ。

「今、私、こんな顔してるんです」
言いながらマスクをアゴまで下げる女将さん。
思わず吹き出しちまったヨ。
いえ、可笑しいのは顔じゃなくて、その仕草。
こういうことする人、初めて見たヨ。
店主も出て来てくれ、しばし歓談。

ここんとこ体調のすぐれない彼女は
日医大病院に通ってると言う。
何だヨ、われ棲む町じゃないか―。
向こうもビックリしている。
これを単なる偶然とは思えない自分がいた。

開店当時の「大八北珍」は近くの裏通りにあった。
それが目抜き通りに移って繁栄を極めている。
彼女の奮闘なくしてこの成功はあり得ない。
あなご丼はじめ、メニューの発案も
すべて女将の担当だという。

これからずっと、墓参の帰りは当店にキマリである。

「大八北珍」
 千葉県松戸市仲井町3-13
 047-368-1609