2023年6月2日金曜日

第3288話 みんな大好き ねぎせいろ (その1)

天気予報は雨なのに薄陽の射す昼下がり。
夜の買い物があるため、御徒町へ。
その前に上野でランチだ。

上野警察署のはす向かい、
クラシカルな喫茶店「古城」に着いたら
TV局の撮影とやらで一時閉店。
すぐそばの日本そば「翁庵」に迂回した。
およそ20年ぶりの訪れである。

いつの間にやら食券制が導入されて
女将らしき女性が帳場に独り。
銘柄を確かめた上で黒ラベルの中瓶と
当店きっての人気商品、ねぎせいろを購入。
合わせて1500円のお支払い。

20年前もねぎせいろだったが
なぜそう呼ぶのか、いまだに判らない。
確かに南蛮カット(縦切り)の長ねぎはたっぷり。
でも主役はつゆの真ん中にドボンと
落とし込まれたイカゲソのかき揚げなのだ。
これが南蛮ねぎだけだったら
誰も注文しないだろう。

久しぶりに見る当店のそばは緑がかっていた。
クロレラでも練り込まれているのかな?
見た瞬間に江利チエミのパンチのある、
歌声が聴こえてきた。

♪   雨はふるふる
  城ヶ島の磯に
  利休鼠の
  雨がふる  ♪
  (北原白秋)

千利休がが好んだ利休鼠は
薄っすら緑を帯びた鼠色。
茶の湯の道を究めた達人にいかにもふさわしい。

多くの女性歌手がカバーしている、
「城ヶ島の雨」だが美空ひばりよりも
島倉千代子よりも断然、江利チエミが好き。
彼女の芸域の広さに舌を巻く。

利休鼠をたぐり寄せる。
池之端の行きつけには及ばぬものの、
歯ざわり、のど越し、ともにけっこう。
食べ出しのつゆがしょっぱい。
食べ進むうちに薄まるがネ。

人気のゲソかき揚げは別段、
デキが良いとも思えず、
ごくフツーの美味しさ。
着いたテーブルの真横に2枚の色紙を見とめた。

=つづく=