初めて入る間口の狭い「艶」。
意外にも中は広かった。
4席あるカウンターに着く。
ビールは一番搾りの中瓶。
冷・温そろうそば切りと米切り。
店のイチ推しは冷たい麺に
温かいつけ汁の肉つけ。
ほかには温玉やとろろ、
全部入りなんてのもある。
あとはカレーつけ。
よしっ、おもむろに肉つけを米切りで通した。
すると、お運びの女のコ。
「すみません、今日は米切りが終わっちゃいまして」
ガッビーン! いきなり横っ面を張り倒された。
こちとら米切り目当てで来たんだぜ。
お嬢ちゃん、俺らを
J.C.オカザワと知っての狼藉かい?
あまりの展開に呆然と立ちすくむ。
いや、座りすくんだ。
無いモノをねだっても仕方がない。
「じゃ、そばでいいや」ー
哀れJ.C.、蚊の鳴くような声で通したのでした、
「肉つけでよろしかったですネ?」
だからぁ、そう言っただろろうがっ!
つべこべ言わずに早く持って来い!
完全にブチ切れの巻である。
ほうら、裕次郎が
「風速四十米」を唸り出したぜ。
♪ ぶっち切れてく ち切れてく
それが定めだよ ♪
なんてウッソ~。
紳士がそんな暴言を発するワケがない。
ましてや年端もいかない若い娘に。
10分で肉つけそばが調った。
これはいわゆる他店の肉せいろである。
つけ汁には豚バラ肉と
南蛮切りの長ねぎがたっぷり.
一口すすって思わずにっこり。
ほうら三浦洸一も歌い出す。
♪ 素肌に燃える長襦袢
縞の羽織を南郷に
着せかけられて帰りしな
にっこり被る豆しぼり
鎌倉無宿 島育ち
オットどっこい
女にしたい菊之助 ♪
(作詞:佐伯孝夫)
吉田正を加えた、
ゴールデン・トリオによる「弁天小僧」は
1955年リリースの名曲であります。
=つづく=