「vivo」をあとにして
なおも錦糸の街をさまよい歩く。
生の穴子を出す鮨屋は閉業した様子。
ガードをくぐって北口方面へ。
何年か前に訪れた焼き鳥屋も玄関を閉ざしていた。
何だ、なんだ、この街は景気が悪いのか?
いっそ浅草まで戻ろうか?
あいや、待て待て、短気は損気。
もうちょいと徘徊してやろう。
今から26年前。
NYから帰国した、まさにその当日。
しばらく錦糸町に居候したんだが
そこの家主とうなぎ屋「両国」で一酌に及んだ。
その店がまだ健在だったので
よほど入ろうかと思ったものの、
いや、待て待て、うなぎはちと重い。
焼き鳥くらいがちょうど好い。
「両国」のある北口目抜き通りを
突き抜けて路地を進んだ。
デカい柴犬を連れたオジさんとすれ違う。
何気なしに振り返ると
オジサン、居酒屋の立て看板に
犬を結わえつけてるヨ。
そうしておいて店内に姿を消した。
犬を愛する御仁が愛する店なら
きっと良店に相違ない。
此処は焼き鳥屋「ひよっこ」。
あとを追うように引き戸を引いた。
「いらっしゃいませ~!」
女将らしき声が聞こえたが
切盛りするのは店主のみ。
声の主は犬連れオジサンと
差し向かいの女性だった。
さっそくドライの中瓶をお願いすると
運んでくれたのはその女性。
「お疲れさまでしたァ」ーグラスに注いでくれる。
ああ、この人が女将さんか。
と思いきや、あとからいろいろ判明してきた。
♪ 昔恋しい下町の 夢が花咲く錦糸町
よってらっしゃい
よってらっしゃい お兄さん♪
この街にも下町人情が名残っているのでした。
=つづく=