2023年8月7日月曜日

第3334話 八十路の店主が 焼く焼き鳥 (その1)

 「vivo」をあとにして
なおも錦糸の街をさまよい歩く。
生の穴子を出す鮨屋は閉業した様子。
ガードをくぐって北口方面へ。

何年か前に訪れた焼き鳥屋も玄関を閉ざしていた。
何だ、なんだ、この街は景気が悪いのか?
いっそ浅草まで戻ろうか?
あいや、待て待て、短気は損気。
もうちょいと徘徊してやろう。

今から26年前。
NYから帰国した、まさにその当日。
しばらく錦糸町に居候したんだが
そこの家主とうなぎ屋「両国」で一酌に及んだ。

その店がまだ健在だったので
よほど入ろうかと思ったものの、
いや、待て待て、うなぎはちと重い。
焼き鳥くらいがちょうど好い。

「両国」のある北口目抜き通りを
突き抜けて路地を進んだ。
デカい柴犬を連れたオジさんとすれ違う。
何気なしに振り返ると
オジサン、居酒屋の立て看板に
犬を結わえつけてるヨ。
そうしておいて店内に姿を消した。

犬を愛する御仁が愛する店なら
きっと良店に相違ない。
此処は焼き鳥屋「ひよっこ」。
あとを追うように引き戸を引いた。

「いらっしゃいませ~!」
女将らしき声が聞こえたが
切盛りするのは店主のみ。
声の主は犬連れオジサンと
差し向かいの女性だった。

さっそくドライの中瓶をお願いすると
運んでくれたのはその女性。
「お疲れさまでしたァ」ーグラスに注いでくれる。
ああ、この人が女将さんか。
と思いきや、あとからいろいろ判明してきた。

♪ 昔恋しい下町の 夢が花咲く錦糸町 
  よってらっしゃい 
  よってらっしゃい お兄さん♪

この街にも下町人情が名残っているのでした。

=つづく=