2018年10月31日水曜日

第1992話 中華がウリのそば処 (その2)

昭和6年創業のそば処「春木家本店」にいる。
ちなみにラーメンの「春木屋 荻窪本店」は
「春木家」で修業した初代店主が
昭和24年に開業したそうな。

相方が味噌田楽を主張したため、
心のうちで抗いながらも、うなづく気弱な自分。
まっ、しっかたなかんべサ。
案の定、コンニャクの大来襲を招いた。
だっから言わんこっちゃない。
せめて豆腐と半々にしてほしい。

当方も負けじと通したのは角煮あんかけ。
中華料理の東坡肉(トンポーロウ)とは異なり、
出汁で炊いた豚肉にモヤシの餡が掛かっている。
あちらのコッテリに対してこちらはアッサリである。
日本そば屋ではあまり見ることのない品目だ。

白鶴の枡酒に切り替えて湯葉刺しを追加した。
角煮のあとの湯葉では
何だか順序があとさきのきらいはあるが
樽香の残る清酒との相性を考慮した次第なり。

途中、単身の若い男性が来店して
中華そばを食べ終わると、すぐに出て行った。
その間、15分と少々。
この夜はわれわれと合わせ、客は3名きりだ。

そろそろ仕上げに入ろう。
もはや名代となった中華そばは抑えておくとして
日本そば屋でそばを食べぬ所業はあり得ぬ。
厨房から出て来てつかの間、
世間話を交わした店主に伺いを立てると、
十割そばを試してもらいたいとのこと。
ここは素直に従った。

中華そばはいわゆる支那そば。
中細麺にすっきり味のスープ。
具はチャーシュウ・シナチク・焼き海苔。
そうだヨ、ラーメンはこうでなくっちゃいけないヨ。
脂まみれや魚粉だらけは
食いたくないというより、見るのもイヤだネ。

中華がウリと聞き、さほど期待しなかった十割そば。
ところがどっこい、店主の力量が存分に発揮されていた。
北海道と秋田のそば粉を合わせた細打ちは
なめらかな舌ざわりとしなやかなコシが共存する。
中華そばも旨かったが、その上をゆく。

こんなそば屋があるのに来客が3名だけとは
近隣の住民の見識を疑ってしまう。
天沼在住のみなさん、あなた方の眼は節穴ですか?

「春木家本店」
 東京都杉並区天沼2-5-24
 03-3391-4220

2018年10月30日火曜日

第1991話 中華がウリのそば処 (その1)

かつてJR中央線・荻窪駅界隈はラーメンの都であった。
”荻窪ラーメン号”の両翼を担ったのが「丸福」と「春木屋」。
ともに長蛇の列を成す毎日だった。
日毎、遠方からも多くの客が押し寄せたのだ。

2軒の間にしょうもない「佐久信」という店があり、
これがまったくの不人気。
メディアの声掛けでプロジェクトチームができ、
一時は再生をはたしたものの、
結局は薬局、長く続かずに消えた。

十数年前に「丸福」の不祥事が公となり、
衰退の一途をたどることになったが
その影響だろうか、
「春木屋」からも往年の輝きが失われたように思う。

さて、久々に遠征した杉並区・荻窪の街。
当夜のターゲットは「ハルキヤ ホンテン」だ。
しかしながら「春木屋 荻窪本店」ではありまっしぇん。
訪れたのは「春木家本店」でありました。

駅北口に出て青梅街道を東に歩く。
相方と
「あれ~、『春木屋』あんまり並んでないねェ」
「そだねー!」
な~んて会話を交わしながらほどなく左折。
住宅街に入り込んだらホンの2分で到着の巻。

なんか立派なビルに建て替わってるヨ。
「今晩は~」―
暖簾をくぐると先客はゼロ。
そうおっしゃったかどうか覚えていないが
女将サンが
「お好きな席へどうぞ」―
とにかくそんな感じで4人掛けのテーブルに着いた。

ビールは瓶がサッポロ黒ラベルで
生は確かエビスだったハズ。
当然、黒ラベルを所望した。
グビリンコのプッファ~! やっぱり美味いや。
ここんとこひんぱんに
キリンラガーの襲来を受けていたから尚更である。

つまみには何をいただこうかな・・・。
額を寄せて品書きに見入る。
相方がイの一番にリクエストしたのは味噌田楽だった。
ふ~ん、田楽ねェ。
上野池之端のそば屋「新ふじ」の田楽は
コンニャクばかりが大量に来て辟易とした経験あり。
一瞬、その悪夢がよみがえったのでありました。

=つづく=

2018年10月29日月曜日

第1990話 永遠の山口百恵

朝日新聞・土曜版の「be」。
先週のbeランキングは山口百恵特集だった。
読者アンケートによる、
「私の好きな山口百恵さんの歌」である。

朝日の読者には重複を押し付けてしまうが
そのベスト5を紹介させていただこう。
実際はベスト20 ながら
それでは興味のない方に負担をかけるものネ。

① いい日旅立ち
② 秋桜
③ 横須賀ストーリー
④ プレイバックpart 2
⑤ さよならの向こう側
 次点:ひと夏の経験

ということで、あつかましくもJ.C.のベスト5をついでに―。

① 横須賀ストーリー
② パールカラーにゆれて
③ 秋桜
④ いい日旅立ち
⑤ 愛染橋
 次点:愛の嵐

となりました。
ちなみに「パールカラー~」は読者ランキング18位。
「愛染橋」と「愛の嵐」は圏外に消えている。

彼女を育てた音楽プロデューサーの酒井政利サンが
『花の中三トリオ』を評するコメントを寄せており、
さすがプロ中のプロの見る目は鋭いな、と感心させられた。
引用してみたい。

土の匂いの森昌子さん、
空からの笑顔の桜田淳子さん。
百恵さんには2人にない海からの強さのイメージがある。

おっしゃる通りでござんすネ。
そして、こうまとめている。

少女が愛を知る大人の女性になり引退するまで
節目の歌が上位に並ぶ結果に
成長を見守ってくれた人々の愛を感じる。
本当に幸せな歌手でした。

堅実に歩む『三浦百恵』の存在が
『山口百恵』のイメージを守り、新鮮さを保つ。
二度と表舞台に出ぬ『勇気』を
彼女が持っていたからこそと思います。

”二度と表舞台に出ぬ勇気”、言い得てお見事。
女優だったらさしづめ原節子でありんすな。

2018年10月26日金曜日

第1989話 鍋屋横丁のとんかつ屋 (その2)

新中野は鍋屋横丁の「かつ金」。
カウンターの隅でビールを飲みつつ、
あらためてメニューを眺めているところ。
ところが店内のメニューは
シーフード・ミックスが真っ黒に塗りつぶされていた。
一応、接客の娘サンに確認すると、
すでに提供を終えた由。
あきらめるほかはない。

それではと再びランチメニューから
これもミックスフライと記された定食をお願いする。
海老フライ・串カツ・コロッケ、
今度は三人官女のお出ましである。
そう、お嫁にいらした姉さまに
よく似た白い顔の持ち主たちだ。

その間にも出入りの客が引っ切りなし。
自動ドアの騒音がどうにも耳障り。
なのにほかの客は全然気にしていない。
自分だけが神経質なんだろうか・・・。
いや、相方もウルサいと言っておる。

われわれの目の前にフライヤーがあり、
揚げ手はご主人ではなく女将サン。
まことに珍しいケースといえる。
よくよく見れば、肉の筋切りからパン粉付けまで
すべて独りでこなしているではないか。
ダンナはといえば、
ごはん・味噌碗・キャベツなどの盛付けと
皿洗いに徹している様子。
ときどき娘にああせい、こうせいと指導を受けている。

聞くともなしに聞いた常連客との会話から
店主は先日、体調不良で病院に運ばれたとのこと。
病み上がりだったのだ。
いや、勢いを失った男はつらいよ、ジッサイ。
身につまされるなァ、まったく。

同時に運ばれた2つの定食膳はボリュームたっぷり。
揚げものの下には油切りの網が敷かれている。
ときどき見かけるこの網は油の溜まり除けよりも
キャベツの水気回避に効力を発揮する。

さっくり揚がってパン粉の立ったロースカツは
ビールにもライスにもピッタシカンカン。
縦切りに二分された串カツは
玉ねぎでなく。長ねぎが使われている。
クリーム系のコロッケと大きめの海老フライも含めて
三人官女はまあそれなりの味わいなり。

たくあん&白菜漬けの香の物と
しじみ味噌碗に手抜かりは寸分もなかった。
遠方からわざわざ出向くほどではないにせよ、
地元の人々をけして失望させない、
優良店であることは確かであろう。

「かつ金」
 東京都中野区本町4-31-10
 03-3383-3729

2018年10月25日木曜日

第1988話 鍋屋横丁のとんかつ屋 (その1)

空に星があるように 
浜辺に砂があるように
上野にアメ横あるように
中野に鍋横ありました。

てなこって今回は鍋屋横丁にあるとんかつの人気店、
「かつ金」を目指して家をあとにした。
降り立ったのは東京メトロ丸の内線・新中野駅。
地上に出ると目の前は青梅街道。
街道の向かい側に大きな看板が見えた。
「とんかつ丸福」のそれである。
界隈には「きしめん丸福」なんぞもあったりして
しかも隣り町の中野新橋には日本そばの「丸福」まである。
それぞれ縁戚関係で繋がっているらしいが詳細は知らない。

相方と待合せてさっそく鍋屋横丁に向かった。
ときに13時過ぎ。
店頭での順番待ちはカップル1組のみ。
これならそうは待たされまい。
でも15分は待った。

細めのL字カウンタ―とテーブルが数卓で
キャパは20席内外だろうか。
われわれはLj字の底辺の右端に案内された。
入口に近い席でとにかく気になったというより、
悩まされたのは自動ドアの開閉のたびに発せられる、
ガラガラ、ガラガラという騒音。
店の客というより、スタッフは気にならないのだろうか?

初老のご夫婦と娘サン、親子3人だけの切盛りと見受けた。
慣れというのは恐ろしいもんだ。
かなりの騒音なのに揃いも揃って無頓着。
われ関せずの馬耳東風であった。
いや、それにしても癇に障るな。

気を取り直して冷たいビールで一息入れよう。
さて銘柄はいかがでしょう?
ナヌッ、キリンラガーの中瓶のみ?
いや、サイズの大中はあるにせよ、
ここんとこコレばっかりだヨ。
アサヒよ、サッポロよ、もちっと奮起せんかい!

外で並んでる間にオーダーは決め手あった。
ランチメニューのラインナップから
まずは上ロース定食。
通常プライスより200円ほどお安くなってのお食べ得だ。
もう1皿は割引はないものの、
陣容に惚れ込んだシーフードのミックスフライである。
海老・白身・キス・いか・ホタテ、
五人囃子の笛太鼓ときたもんだ。

=つづく=

2018年10月24日水曜日

第1987話 傾きかけた老舗そば店 (その2)

藍染川通りが尾竹橋通りに合流する、
花の木交差点を過ぎてほどなく、
目にとまったのが見るからにヨレヨレの日本そば屋だった。
ピサの斜塔ほどではなくともかなり右に傾斜して
隣りの民家にもたれかかってるじゃないの。

   ♪ あんまり傾きが ヒドいので
   さぞや民家サン 重たかろ
   サノ ヨイヨイ    ♪

てな光景にしばし目を奪われた。
何となく興味を持って店先にたたずむ。
店頭設置のTVモニターがグルメ番組の録画を流している。
何でもこの「京屋」は創業80年を超える老舗で
今は若き四代目が奮闘中とのことである。

ふ~む、一訪の価値ありかもしれんゾ。
空腹感にも後押しされて何の抵抗もなくスルリと入店。
ところが世の中甘くはなく、はからずも満席である。
入口に直立してしばし待つこととなった。
このとき脳裏をかすめたのは森昌子の「立待岬」である。

  ♪  待って待って 待ちわびて
   立待岬の 花になろうと
   あなたあなた 待ちます
   この命 涸れ果てるまで  ♪
      (作詞:吉田旺)

一瞬、函館市郊外の岬の景色がよみがえる。
昌子が「立待岬」なら、J.C.は「立待店先」ときたもんだ。

待つこと5分でカウンター席が空き、
キリンラガーしかないビールの大瓶を仕方なく飲みながら
注文したのは、もりそば&ミニ親子丼のセット(800円)。
ミニ丼はほかに牛丼とカレーからも択べる。
厨房内は四代目が孤軍奮闘。
接客も彼の母親だろうか、古希前後の女将サン独りきり。
それにしても最近はキリンラガーとの遭遇ばかりだ。
2切れ付いたきゅうりの浅漬けがせめてもの救いか。

待つこと今度は10分で整ったそばは
ほどほどのコシを備えたツルツル系。
つゆは下世話感を残してちょい甘め。
子どもの頃によく食べた庶民の町の日本そばである。

親子丼はそば屋の出汁が効いており、いいカンジ。
どんぶりモノのつゆだくは大嫌いだが親子だけは赦す。
もともとつゆ気の多いかつ丼・牛丼はもとより、
天丼・うな丼においても
ごはんの上に丼つゆ・丼たれは掛けてほしくない。

いずれにしろ傾いているのは建物だけの「京屋」。
経営に傾きが見られないのはご同慶の至りである。
お二人ともどうぞ頑張ってくらしゃんせ。
その命、涸れ果てるまで―。

「京屋」
 東京都荒川区荒川7-43-2
 03-3895-2680

2018年10月23日火曜日

第1986話 傾きかけた老舗そば店 (その1)

その日の午後は上野台地を歩いていた。
桜木から谷中を突き抜け、
諏訪神社脇の坂を下って西日暮里駅前へ。
頭をよぎるのはフランク永井の「西銀座駅前」だ。

  ♪   霧にうず巻く まぶしいネオン
   いかすじゃないか 西銀座駅前  ♪

でありますが、このくらいでやめときやす。
西銀座と西日暮里じゃ、似ても似つかんし、
そうひんぱんに昭和歌謡を取り上げると
ひんしゅくも買うしネ。

長いこと東大進学率ナンバーワンを誇っている、
開成高校の丘を仰ぎ見ながら
JR山手&京浜東北線が並んで走るガードをくぐり、
線路沿いを北に歩いて冠新道の西端にたどり着いた。
外来者の姿を見ることまれなる、
むか~しの商店街が
いくばくもない余命を徒(いたずら)にやり過ごしている。
というのはあまりに言い過ぎで
焼き鳥「鮒忠」も割烹「熱海屋」も健勝の様子であった。

京成線・新三河島駅前で明治通りを渡り、
歩行者の姿もまばらな藍染川通りに入った。
藍染川となれば、
われら”谷根千ウォーカー”にとっての第一感はへび道である。
今は暗渠となった川に覆い被さって走る、
迷い道クネクネのへび道である。
だいじょ~ぶ、だいじょ~び、
ここで真知子姐サンは出さへんから。

だけどサ、何でこんなとこに藍染川通りがあんの?
当然、地下を川が流れているハズで
まるで方向が違うじゃないか!
あとで調べてみたら道灌山下近くの、
よみせ通り入口辺りで分流していることが判明した。
へび道下の暗渠が不忍池に注ぐのに対して
こちらは隅田川へと流れ込む由。
ふ~ん、そういうことなのネ。

しばらくして道は尾竹橋通りに合流。
このまま行けば、JR、都営、私鉄の3線が乗り入れる、
荒川区のプチ・ターミナル、町屋駅前に至る。
ずいぶんな距離を歩いたために
のどは渇くし、腹も空いた。
そろそろ”要一服”であろうヨ。
  
=つづく=