2015年11月11日水曜日

第1227話 昼はうな肝 夜は鳥肝 (その1)

昨夜のNHKの「歌謡コンサート」は古賀政男特集だった
所用を済ませて帰宅したときにはほぼ番組の大詰め、
大川栄作が早稲田大学の第二校歌「人生劇場」を歌っていた。
それにしても森昌子と別れた森進一は歳をとったねェ。

それはそれとして
現代人には忘却の彼方に追いやられた感すらある古賀政男。
自著「文豪の味を食べる」の古賀翁の稿をご覧いただきたい。

=酒はうなぎか肝焼きか=

流行歌の作曲家としては初めての国民栄誉賞に輝いた古賀政男。
1960年代のテレビ番組に
素人勝ち抜きのど自慢の「歌まね読本」があり、
審査員長を務めた古賀政男はお茶の間の人気者だった。
ちなみに小林幸子はこの番組出身の出世頭だ。

スポンサーは肩こり用貼り薬メーカーのトクホン。
うまいこと番組のタイトルにスポンサー名がかぶったのだが
これをおやじギャグと揶揄したら叱られる。
今でも日本橋本町に小ぢんまりとした本社ビルが立っていて
江戸前天ぷらの「てん茂」に立ち寄るとき、
その前を通り過ぎるのだが
ひっそりとしたビルの姿に隔世の思いをぬぐいえない。

代々木上原の古賀政男音楽博物館を年に一度は訪れる。
ホールでの講演会を初め、各種イベントに興味を惹かれるためだ。
些少な参加費で有意義なときを過ごせるのがありがたい。

古賀自身の住まいを再利用した博物館は
駅から至近なのに落ち着いた佇まいを見せており、
故人の人柄を偲ばせている。
 
晩年はやもめで通した古賀が
愛顧したうなぎ屋が代々木上原駅前の「鮒与」。
飲食店が数軒並ぶ横丁にある小体な店だ。

御大は店に出向いて食べることはなかったようで
もっぱら出前を楽しんだ。
当時、数人のお手伝いさんがいたハズだが
使用人と一緒に食卓を囲むこともあるまいし、
独りでの箸の上げ下げはあまりにも味気ない。

おそらく天下の大作曲家は
気心の知れた来客や弟子たちに振舞いながら
一緒に食べたものと思われる。

遠方の店に出向くときにはあらかじめ電話を入れる。
予約を取るというより、その日の営業を確認するためだ。
たどり着いたら臨時休業では文句を言う相手が見つからない。
その夜もそうしてから赴いた。

=つづく=