2011年10月13日木曜日

第161話 ハムカツが完全復カツ

昭和30年代、町の精肉店の揚げ物コーナーには
必ずといってよいほどハムカツがあった。
それも中身のハムより両サイドのパン粉のほうが厚いヤツ。
しかもハム自体がロースやボンレスに程遠く、
何の肉だか判らない畜肉が混合されたヤツだった。
中には魚肉の混じったのもあったのではなかろうか。

その後、ハムカツの消息がプツリと途絶えて・・・
っていうか、肉屋で買い食いをしなくなったために
こちらが勝手に疎遠となっただけで
実際は細々と売られ続けてきたのかもしれないが
あまり目にする機会がなくなった。

それがいつの頃からだろう、
定食屋や居酒屋でしきりに目にするようになったのは―。
殊にレトロをウリにしたエセ昭和30年代風の酒場で目立つ。
ご丁寧に”昔懐かしいハムカツ”などと一筆添えられてネ。
もはや完全に復権をはたした感すらある。

はしご酒の最初の1軒、あるいは最後の1軒で
よき酒の友となってくれるのがハムカツ。
トンカツではそうはいかないし、メンチカツもちと重たい。
芋のコロッケはどちらかというと女子どもの食べもので
しがないオヤジにはハムカツがしっくりなじむのだ。

西浅草は合羽橋通り(道具街ではない)の「豚八」は
以前、年中無休の24時間営業を敢行しており、
その時分はよく真夜中に利用した。
ここのハムカツの中身は単にハムのみにあらず、
チーズが1枚しのばせてあるのだ。

チーズが溶けて流れ出す

都内屈指のハムカツがこれである。
もっとも正しくはチーズハムカツだけれどネ。

9月中旬、埼玉県・春日部在住の友人から
ジャズコンサートに出て来いとの呼び出し。
役者はあのディック・ミネの長男坊、
といってもすでに古希を超えたケニー・ミネさんである。
でもって行きました、8人ほどの徒党を組んで。

コンサートの前に軽く一杯。
案内されたのは「ふじや」なる町の食堂だ。
日中は初老の夫婦二人だけの切盛り、
日が沈むとバイトの可愛いおネエちゃんが手伝いに来るという。
当日はまだ宵の口、惜しくも目の保養はならなかった。

その代わり喉と舌をそれなりに歓ばすことができた。
スーパードライの大瓶に
枝豆・焼き餃子・赤ウインナー炒め、そしてハムカツくんである。

薄いのが2枚重ねで登場

サクッと軽やかに揚げられて冷たいビールにピッタンコ。
このままずっと飲み続けていたい。

街道筋にある何の変哲もない食堂ながら
夫婦が律儀に作り続けてきた料理には
真心という名の隠し味が利いておりました。

「豚八」
 東京都台東区西浅草2-27-10
 03-3842-1018

「ふじや」
 埼玉県春日部市中央1-18-4 
 048-754-4589