2014年4月4日金曜日

第809話 黄昏の焼きとん (その1)

 ♪ 雨に濡れてた たそがれの街 
   あなたと逢った 初めての夜 
   ふたりの肩に 銀色の雨 
   あなたの唇 濡れていたっけ
   傘もささずに 僕達は 
   歩きつづけた 雨の中 
   あのネオンが ぼやけてた  ♪
        (作詞:永六輔)

永六輔と中村八大の黄金コンビ。
彼らがこの世に生み出した名曲は数限りないが
「黄昏のビギン」は間違いなく五指に入るでしょうネ。

オリジナルを歌ったのは水原弘。
「黒い花びら」で第一回レコード大賞を受賞した、
歌唱力に定評のある実力派シンガーだ。

かたや女性歌手では
これも負けず劣らずの名手・ちあきなおみがカバーしている。
何を歌わせても抜群に上手い彼女ながら
このナンバーは水原に分があるような気がする。
こういうものは好みの問題がからむので
断定はできないものの、J.C.は弘クンに1票を投ずる。

その日の黄昏どきはJR中央線・中野駅前にいた。
ワリと遅めにこの街にやって来る相方を待つ間、
どこぞ気の利いた店で時間をやり過ごさねばならない。
待ち合わせは気に入りの天ぷら店「住友」。
たかだか1時間とちょっと、先乗りしてカウンターに陣取り、
一杯飲りながら待てばそれでいい。

中野ブロードウェイの2階に上がってみると、
その日はあいにくと「住友」の定休日。
急遽、相方にメールを送り、こちとらは代わりの店探し。
まあ、中野は知らない街じゃなし、代替案はすぐに整った。
あとは1時間半の時間つぶしである。

そこで西荻在住ののみとも・R香にメールを送信。
この娘(すでに人妻だけど)の通り名は中央線の焼きとん魔女。
蛇の道は蛇、こと焼きとんだの、もつ煮だのにかけては
J.C.が一目も二目を置く女傑なのだ。

ところが待てど暮らせど返信が来ない。
(結局、着信したのは23時であった)
よって、独り北口を物色して飛び込んだのは
もつ焼き「カッパ 中野店」。

荻窪に本家があり、8年ほど前に訪れたことがある。
記憶はうっすらとしか残っていないが
お世辞にもキレイな店とは言いがたかった。
それに比べ、中野店は新しいせいか、清潔感にあふれている。
まだ浅い時間なのでカウンターの埋まり具合は1/3程度。
余裕を持って着席し、豚もつのリストを手にとった。

=つづく=