2014年4月21日月曜日

第820話 桜も散ればアカシヤも散る (その4)

先週、数年ぶりに映画「赤いハンカチ」を観た。
月契約のTSUTAYAから取り寄せたDVDだ。
この作品には気に入りのシーンがあって
何度も巻き戻して楽しむ。

ハマの裏町を裕次郎がギター爪弾きながら流してゆく。
歌う主題歌は1~3番まで大判振る舞い。
彼の背中越しに、”浜通り飲食街”の看板が見えるが
J.C.の知る限り、ハマにそんな飲食街はない。
横浜駅前の狸小路と似てないこともないけれど、
これは架空の夜の町、ロケではなくセット撮影である。
セットだが、かなりイカしている。

何度も観直しているうちに
映画も曲も「赤いハンカチ」がマイベストになってしまった。
観れば観るほど、聴けば聴くほど、素敵なのだ。

もともとJ.C.は映画に芸術性をまったく求めないタイプ。
代わりに娯楽性はとことん追及する。
だから黒澤明作品においても
一に「椿三十郎」、二に「用心棒」、
三、四がなくて五に「七人の侍」で収まってしまう。

さて、映画「赤いハンカチ」には北海道、
それも山奥の砕石現場のシーンがあるものの、
主題歌の1番と3番に登場する、アカシヤは出てこない。
ちなみにこの花は通常、アカシアと表記されることが多い。

アカシヤは北の大地、北海道をイメージさせる典型的な樹木。
実はコレ、正しくはアカシヤではなく、ニセアカシヤなのだ。
またの名をハナエンジュという。
本物のアカシヤは寒さに弱く、
日本国内だと関東地方が生育域の北限らしい。

小林旭の「ギターを抱いた渡り鳥」よろしく、
元刑事のヒーローがどこにでもギター片手に現れるのが
ちょいと鼻につくものの、
歌うシーンがふんだんに盛り込まれているため、
演出上、致し方なかったのだろう。

愛し合いながら結ばれなかった裕次郎とルリ子。
どうやらハッピーエンドを迎えたかに見えたのだったが
なぜか裕次郎はギターとともに去ってゆく。
いつか恋人の元に帰って来そうな期待感を観る者に抱かせながら・・・。
このラストシーンがキャロル・リードの「第三の男」をモロに想起させる。
バックに流れる音楽がチターからギターに代わっただけだ。

「役者は男子一生の仕事に非ず!」―こう断言して
石原プロモーションを立ち上げ、映画製作に乗り出した裕次郎。
でもネ、自作の大作、「黒部の太陽」や「富士山頂」は
力作だろうが、けっして名作にはなりえていない。

彼の生命線はデビューから10年足らずの間のみ。
その後は映画より歌のほうでよい作品に恵まれた。
エッ? TVはどうなんだ! ってか?
アレはほかの役者サンたちのものであって
本人は単なるマスコットに過ぎない。

 ♪ 死ぬ気になれば 二人とも
   霞の彼方に 行かれたものを ♪

=おしまい=