2014年12月23日火曜日

第996話 北の横丁をさすらう (その4)

文横は餃子の老舗「八仙」に独り。
隣りでは左右それぞれに単身の男女が酢(ママ)辣湯麺をすすっている。
熱々のあんかけが表面をおおっているので
食べ手はレンゲと割り箸を駆使して苦闘しているようにも見える。

1軒目の「くろ田」ではこれでもか!というくらい豚のハラミ肉を食べてきた。
それが今になってボディブローのように効いてくる。
「八仙」の餃子はかなりのレベルに達しているのに
パクパクというわけにはとてもまいらないのだ。

中瓶はすぐカラになり、もう1本追加。
腹はくちくともビールにはベツの行き先があるのかネ、
まるで春の小川のようにサラサラと流れてゆく・・・不思議だ。

食べものはもう入らない。
冷めかけた餃子がまだ3カンも残っている。
このあと予定があるじゃなし、腰を落ち着けることにした。
料理の追加が無理ならば、そこは酒でカバーすればよい。

アルコール類はほかに
清酒・生酒・焼酎・老中・中国酒・ウイスキーがあった。
中国酒は白乾(パイカル)あたりの蒸留酒だと思われる。
老中は徳川幕府の”ろうじゅう”ではなく、
もち米から作る老酒(ラオチュウ)のことだろう。
酢辣湯麺の”酢”の字といい、
店主は故意なのか無学なのか、こちらが判断しかねる当て字が目立つ。

その老中はこうあった。
 老中(大)2合 1230円  老中(小)1合 820円
1合じゃすぐ飲み切っちゃうし、
第一、(大)のほうがずっと割安だ。
かくして老中の手酌酒が始まった。

独りでいても孤独を感じさせない明るさが店内にみなぎっている。
嬉しかったのはカウンター内にいるオバちゃんの接客ぶりだ。
着かず離れずの呼吸がまことに好もしい。
言葉のはしばしに気持ちの温かさがにじみ出ている。
東北人なんだねェ。

酢辣湯麺のOLが帰ったあと、
左隣りに中年、いや、実年というのかな? とにかく夫婦が入店してきた。
店の常連らしくスタッフとの会話も活発である。
どうやら、矢沢永吉のコンサート帰りらしい。
旦那のほうが大ファンでカミさんは嫌々つき合った様子だ。
実はJ.C.もキャロルや矢沢の良さが判らない一人。
彼らの全盛時代に日本を留守にしていたせいかもしれない。

焼餃子をつまみながらカミさんがボヤいた。
「ああいうの観てると、くたびれに行ってるみたいで・・・」―
そうでしょう、そうでしょう、その気持ち、よお~く判ります。
苦痛どころか拷問に近いもんネ。

旦那がたぐる旨そうなラーメンを目の端にとらえてのお勘定は3千円。
おそらく今回の滞在中にもう一度来ることになろう。
何せまだ餃子しか食べてないんだから―。

=つづく=

「八仙」
 宮城県仙台市青葉区一番町2-4-13
 022-262-5291