2014年12月17日水曜日

第992話 名代なるかな寿そば (その2)

亀有の「寿々喜」、前話でご覧にいれたように一品料理、
いわゆるつまみ類の品揃えはけっして多くはない。
町場のそば屋の分をわきまえ、生モノも一切ない。
アンテナを刺激されたのはアサリ天ともつ煮込みであった。

J.C.はもつが大好き。
前述の池之端「新ふじ」の煮込みなど都内屈指だ。
大衆酒場・居酒屋の本格的煮込みを含めて
東京のベストテンにランクされる傑物である。
やはり煮込みにゃ惹かれるなァ。

ところが選んだのはアサリ天のほうだった。
狙いは名代の寿そばだから
そば前にもつ煮込みは少々クドい。
その点、アサリ天ならサクッといける。
お願いすると、ポッチャリ女将がすかさず叫んだ。
「おすすめでェ~す!」―
ほう、そうかい、そうかい、お前さん、なかなかの愛嬌者だネ。

待つこと10分、揚げ立てが運ばれた。
一つづつバラで揚げられピーマンも1片
さっそく一つつまんで数えてみたら総勢15粒。
じゅうぶんな量といえよう。

ふむ、噛みしめるほどに貝類特有の滋味が口中を支配する。
添えられた粗塩の助けを借りなくともビールにピッタンコ。
ピッタンコだが欲しくなるのは日本酒の上燗だ。
いや、どうせこれからどこかに回ることになろう、
よってここは我慢、ガマンの三度笠。

選択肢に限りのあるなか、よいものを選んだという実感が湧いてくる。
このあと注文する手はずの寿そばにも二つ三つ浮かべてみようか。
と、思いつつもバカですねェ、気がついたらみんな食っちまっていた。
我ながら浅はかなり。

いよいよ目当ての寿そばだ。
半ライスを従えての登場
ドンブリ鉢を彩る面々はまず揚げ玉と油揚げ。
この時点でたぬきときつねの合体版、むじなそばの条件を満たす。
続いてかまぼこ・わかめ・南蛮ねぎ・玉子、そして餅である。
生湯葉のようなのが玉子、いわゆるポーチドエッグですな、これは。
あらためて俯瞰すれば、
海老天のような値段の張る具材は不在ながら百花繚乱の趣きがあった。
うむ、うむ、予は満足じゃ!

しっかし、これが600円とは
日本経済のデフレはいまだ冷めやらぬものがある。
いや、いや、そうではなく、
この佳店の良心の表れと受け止めるべきだろう。
暖かい季節を迎えたら
ぜひ、冷やし寿そばを食べにまた来よう。
そう思いながらの支払いは金1600円也。
再び満足であった。

「寿々喜」
 葛飾区亀有-35-4
 03-36012005
 駅北口に同名店あり、ご注意あられたし。