2014年12月10日水曜日

第987話 イスキアの光よ パリの影よ (その1)

先週の水曜日。
朝から所用であちこち飛び回っていた。
順調に日程をこなし、夕方には帰宅する。
なぜならひかりTVで16:15放映の洋画を
是が非でも観たかったからだ。

タイトルは「お熱い夜をあなたに」。
原題は「Avanti !」、伊語で「お入り!」である。
イタリアのホテルでは接客係やハウスキーパーが
客室をノックしながら「ペルメッソ(失礼します)」と声掛けするのがしきたり。
それに返して「アヴァンティ(どうぞ)」となるわけだ。

ところでこの作品、どこかで聞いたようなタイトルだと思いませんか?
監督はビリー・ワイルダー、これがヒントです。
とても洒脱な映画を作る人で大好きな監督の一人だが
そう、彼にはマリリン・モンローを起用した「お熱いのがお好き」があり、
シャーリー・マクレーンを使った「あなただけ今晩は」がある。
そして二つのタイトルを組み合わせたような「お熱い夜をあなたに」だ。
もっとも前述のごとく、原題は似ても似つかないがネ。

主演女優は英国人のジュリエット・ミルズ。
モンローやマクレーンに比べればほとんど無名に近い。
マリリンやシャーリーよりずっと太目の豊満な肉体の持ち主で
フェデリコ・フェリーニの「甘い生活」に出てきたアニタ・エグバーグばりだ。
とにかくプリップリの乳房やヒップを惜しげなくご披露あそばされる。
残念ながら1972年の作品のため、
ヘアのボカシが胡散臭いことこのうえない。

舞台はイタリア南部、チレニア海に浮かぶイスキア島。
隣りのカプリ島では青の洞窟(グロッタ・アズーロ)がつとに有名で
一年を通じて観光客が押し寄せるのに
この島は金持ちのリゾート・アイランド的な性格が強い。
バック・パッカーが訪れて面白い島ではない。

かくいうJ.C.も映画の作られた前年の1971年、
カプリからイスキアを眺めたことはある。
おそらく憧憬の眼差しで見つめていたことだろう。
そう、わが人生に大きな影響を及ぼした映画、
「太陽がいっぱい」の大部分は陽光きらめくこの島で撮られたのだ。

「お熱い夜をあなたに」のあらすじは明かさないけれど、
とても良くできたラブ・コメディだった。
ただ一つ冒頭シーンだけ紹介しておこうか。

赤に染まった派手な服装のジャック・レモンが自家用機から
大型旅客機に乗り込んでくる。
隣りの席はカソリックの神父さまだ。
機内をキョロキョロしたレモン、
一人の老紳士に狙いをしぼって彼の隣りに移動する。
耳打ち話で交わした会話はふたことみこと。
やおら立ち上がった二人は前方に進み、揃ってトイレに消えたのだった。

さあて、お立会い、機内は大変なことになった。
大の男が二人一緒に狭いトイレで何するのヨ?
スチュワーデスたちは騒ぎ出し、
コックピットからは副機長みたいのも出てきた。
乗客たちの好奇な眼差しはトイレ、その一点に集中の巻である。
カソリックの神父なんざ、身を乗り出して背伸びまでする始末。

ねッ! 面白いでしょう?
書き忘れたがジャック・レモンは上記3本のワイルダー映画、
そのすべてにおいて主役を張っている。
黒澤・三船の関係に近いですネ、こりゃ。

=つづく=