2015年5月28日木曜日

第1108話 何処よりも此処を愛す (その12)

”美家古シリーズ”もとうとう(その12)まで来てしまった。
しかもいっこうに終わる気配がない。
読者におかれましてはご迷惑なこってすが
いましばらくのおつき合いをおん願い奉ります。

平目昆布〆・鱚・真鯛ときて4番バッターは
「美家古」の持ち駒では角行(かくぎょう)、
いわゆる角的存在の小肌だ。

小肌が角なら飛車は何だ!  ってか?
ここは無条件で穴子。
先述の通り、「美家古」名代の鮨種は穴子をおいて他にない。
 
飛車角か決まったところで興味は王将にしぼられよう。
しぼられるが、実のところ玉(ぎょく)は鮨種ではなく、
種の土台にあたる生わさび&酢めしに落ち着く。
このコンビなくして飛車角はその本領を発揮することができぬ。
 
小肌と穴子についてはすでに多くを語ったので
これ以上、くどくどと述べない。
スルーして5番打者に抜擢したのはあじ。
当然、生あじではなく、酢あじだ。

常々、言ったり書いたりしてきたから
読者には耳タコ・目タコの向きも多かろうが
J.C.は青背の生は得意としない。
鮨屋で生のあじ・いわし・さばを注文することはまずない。

たとえばあじ。
どんなに新鮮であろうと、たたきやなめろうの類いは敬遠する。
ところが酢で〆たのに出会った途端、
彼らは必注の品目に変身してしまう。
酢あじ、酢いわし・〆さば、いずれも大好きなのだから  
これを酢の魔力と言わずして何と呼ぼう。

ケースの中に見知らぬ小サクを発見。
見た目はかんぱちのようだが「美家古」にはないハズ。
エッ? しまあじかな?
しまあじだって、ここにはないのだが・・・
はたして、しまあじだった。

記憶は定かでないが当店では初めて遭遇するサカナである。
マスト・トライを実感し、6番はしまあじ。
ふむ、それなりに美味しいけれど、
やはり「美家古」に生モノはそぐわない。

7番バッターは車海老だ。
オドリと称される活け海老ではなくボイルされたものだ。
火を通されて素材に潜んでいた甘みが穏やかに花開く。
車海老にはハナからおぼろが挟まれていた。
う~む、名脇役のおぼろがいぶし銀の光彩を放っている。

=つづく=