2015年5月11日月曜日

第1095話 ふりむけばニシニッポリ (その3)

♪   ABC・XYZ
  これは俺らの 口癖さ
  今夜も刺激が 欲しくって
  メトロを降りて 階段昇りゃ
  霧にうず巻く まぶしいネオン
  いかすじゃないか 西銀座駅前  ♪
       (作詞:佐伯孝夫)

フランク永井が歌った「西銀座駅前」が
銀座の街にこだましたのは昭和33年。
長嶋茂雄が読売ジャイアンツに入団した年である。

往時、営団地下鉄丸ノ内線・銀座駅は西銀座駅と称された。
東銀座は今も残るが西銀座は消滅した。
銀座の匂いが濃厚に立ち込めるのは何といっても西銀座。
歌舞伎座や演舞場などを擁する芝居の街、東銀座ではけっしてない。

西銀座駅前ならぬ西日暮里駅前にいる。
目当ての店がオープンするまでおよそ30分。
時間つぶしを兼ねたツナギとなる飲み屋を物色中だった。

道灌山通りを歩いていて
牛丼の「吉野家」の隣りに間口の狭い、
それこそ見過ごしてしまいそうな食堂を発見した。
その名も「はっけん食堂」、もとい、「はってん食堂」である。

ちょうど晩飯と晩酌が重なる時間帯、
店内はなかなかの混雑ぶりだ。
しかし、喧騒をきわめているのでもない。
グループ客が少ないのが静かな理由だと思われる。

例によってビールの大瓶を所望した。
店のスタイルはセミ・セルフサービスと呼んでよかろう。
飲みものは接客係が運んでくれるが
食べものは小皿に盛られた料理を客が選び、
自ら電子レンジでチンするスタイルなのだ。

揚げ出し豆腐、筑前煮、かに玉あんかけ、青椒肉糸、
酢鶏、鶏団子入り八宝菜あたりがすべて170円均一。
塩じゃけ、さんま開き、さば味噌煮、かれい煮付けなど、
サカナ系は一律190円。

どこをどうひねったらこんな値段で出せるのだろう。
料理ボードは大安売りの態を様している。
ただし、飲みものはそんなに安くない。
ビール大瓶は599円、ホッピーセットが420円、酎ハイ330円、
レモンサワー350円といった具合だ。

居並ぶ小皿&小鉢をつぶさに観察し、
つまみの物色に入った。

=つづく=