およそひと月ほど前。
4月に入って2度目の「弁天山」参りであった。
のみとも・めしとも・うたともと、一人三役をこなしてくれる、
O戸サンとつけ台、それも五代目親方の正面におさまっている。
たった今、初っ端の平目昆布〆を口元に運んだところだ。
ちなみににぎり鮨をいただくとき、J.C.は必ず割り箸を使う。
もちろん直(じか)に指先でも作法上、いっこうに構わないが
何十年も割り箸のお世話になってきており、
もうこればかりは死ぬまで変わることがない。
なぜか?
指を使うと体温の熱のため、
直前に食べたサカナの匂いが付着して、それが気になるからだ。
小まめに手拭きを使うのも煩わしいしネ。
その点、割り箸はまことに使い勝手がよろしい。
これが塗り箸となるとまた厄介で
箸先が細く鋭いから酢めしの中に食い込んでしまう。
さすれば、下手を打つと酢めしが割れる。
それもまた割れ箸じゃないか! ってか?
フンッ、シャレにもなりやせんぜ、お立合い!
つけ台の上で割れるならまだしも
最悪のケースは空中分解、救いのない惨状を招く。
ヨタもいい加減にしてトップバッターの平コブくん。
「美家古」初訪問の相方をそっとうかがうと、
OK、オーケー! ことのほか満足の様子だ。
そうでしょう、そうでしょう、それが常識と分別を兼ね備えた、
レディーの反応というものでありまっしょう。
ヨも満足じゃぞヨ。
2番打者はきす。
サカナのきすには”鱚”の字を当てる。
皮目の細やかな絣(かすり)模様が何とも言えず小粋で
ガラス越しに一目見たときから2番はコレと決めていた。
鱚というヤツは天ぷらにするとホックリ柔らかな食味を見せるのに
軽く〆た生でやると歯を押し返す、ほどよい弾力が魅惑的ですらある。
まっことデリカシーの頂点と断言してよい。
したがってデリカシーのない人には向かない鮨種でもある。
3番は春の王者・真鯛。
皮目をサッと熱湯処理した松皮造りで供される。
よく、果物の美味みは果皮と果肉のあいだに潜むといわれるが
真鯛がまさしく、そうなのだ。
理にかなった江戸前シゴトの極みがコレだ。
とにかく旨みじゅうぶん。
平目や鰈(かれい)では物足りない向きには絶好の白身である。
ここでわさび(山葵)のおハナシ。
本わさびというヤツは、イカや平目には効きすぎて
カンパチ・ブリ・まぐろトロなどには効かなすぎ、
そんな脂っ気に弱い特性を備えている。
ちょうどよいのが真鯛で、相思相愛の間柄と言えましょう。
=つづく=