2016年5月6日金曜日

第1354話 五月のそよ風 (その1)

大型連休も残り少ないみどりの日。
朝方まで降りしきっていた雨も上がり、
初夏を感じさせる陽射しがまぶしい。

思い立って昼過ぎに出掛けた。
何を思い立ったかというと墓参である。
我が家(け)の墓所は千葉県・松戸市の八柱霊園。
新京成線線の起点、松戸から4つ目の八柱にあるのだが
ここ1週間ほど歩き不足なので
JR常磐線の北松戸で下車し、ぶらぶら歩いた。

途中、松戸新田やみのり台の駅前商店街に立ち寄ったりしたから
1時間半近くも費やしてしまった。
香華を手向け、墓前を掃(はら)う。
うららかな陽光の下、そよ風が心地よい。

帰路、松戸に出て飲み場を探す。
第一感は焼きとんの「ひよし」だが近所の「鳥孝」に入った。
こちらは焼き鳥をウリにしている店だ。
箸袋には”チキンの殿堂”と明記されている。
ふ~ん、殿堂ねェ、ってことは殿堂入りしたわけだ。

稔台、元山、六実など新京成沿線に
流山、南柏、柏など常磐線沿線、
北総を中心にチェーン展開している。

ただし、少なくとも松戸店に限っては
チェーンの”チェ”の字も感じさせない。
殊に2階は古く良かりし昭和の匂いが立ち込めて
昭和30年代の浅草の老舗酒場で飲んでるような、
そんな錯覚を呼び起こす。

万歩計を肌身から離して10年は経つだろうか・・・。
ところが身体は感覚を忘れないもので
訊ねてみたら、2万5千から3万歩との回答あり。
そうだろうな、ノドはカラカラ、両太腿はパンパンだもの。

飲み干したビールが瞬時に体内を駆け巡り始める。
いえ、実際にそんな現象が起こりうるハズもなく、
ただそんな気がしただけなんですけどネ。

ビールの美味さを何に例えよう。
読者の中には山田洋次監督の映画、
「幸せの黄色いハンカチ」をご覧になった方も多いことでしょう。
網走刑務所から出所したばかりの高倉健が食堂に入って
注文したのは、瓶ビール、醤油ラーメン、かつ丼でありました。
コップのビールを飲み干す健サンの身震いを覚えてるでしょ?
この日のJ.C.も恥ずかしながら震えました。

2階の接客係はオバちゃんとオネエちゃん。
オバちゃんが通りに面した大きな窓を開け放つ。
「今日はあったかいからこの方が気持ちいいわヨ」―
飛び込んできたのはみどりのそよ風でありました。

=つづく=