2016年7月22日金曜日

第1409話 クラムだって恋をする (その2)

東京の街で初めてホンビノスに遭遇したとき、
その第一印象はよくなかった。
貝殻の色や模様から想像される味は
まずダメだろうな・・・そんな感じだった。

パックを手に取って眺めているうち、
おや? ちょいと待てヨ、
これってニューヨークでよく食べたリトルネックじゃないの?
そこに行き着いたのだった。

ウィキペディアによればこの貝、
米国東海岸からメキシコのユカタン半島まで広く分布し、
サイズに応じて呼称が変化する”出世貝”とのこと。
若い順から

リトルネック→トップネック→チェリーストーン→チャウダークラム

と呼ばれる。

ニューヨークには10年あまり棲んだ。
そのあいだ、トップネックの名は何度か耳にした記憶があるものの、
チャウダークラムは聞いたことがない。
通常はリトルネックかチェリーストーンのみ。
しかもJ.C.はこの2種をまったくの別種と認識していた。
ウィキペディアのおかげで初めて”出世貝”と知ったのだ。

生でいただくリトルネックの美味しさは
当地で食べる生ガキの上をいった。
そりゃあ日本の的矢、唐桑、仙鳳趾あたりで収穫される、
上物を凌駕するとまでは言わないが
かなりの美味であることは間違いない。

ホンビノスは生食以外にも重用されている。
最大に育ったものをチャウダークラムと称するようだが
その名の通り、最もポピュラーなのがクラムチャウダー。
いろいろ食べてみてこれはまずハズレのない、
希少なアメリカ固有の料理と言えよう。

誰が決めたか知らないけれど、
ブイヤベース、ボルシチ、トムヤムクン、魚翅湯(フカヒレ)
の四つをもって世界四大スープとするらしい。
確かにそれぞれみな美味しい。

しかしながらちょいとばかり斜に構えて
マイ・四大スープを選べば、
スープ・ド・ポワソン、ビーフコンソメ、ミネストローネ、
そしてクラムチャウダーとしたくなる。

クラムチャウダーには東海岸だけでも3種のスタイルがある。
ニューイングランド、マンハッタン、ロードアイランドがそれだ。
あの大雑把なアメリカ人がここまでこだわるのは
きわめて稀有なことと言わねばならない。

=つづく=