2016年7月25日月曜日

第1410話 クラムだって恋をする (その3)

米東海岸の北部三州だけで3種類もあるクラムチャウダー。
それぞれを簡単に紹介してみよう。

最もポピュラーなのはニューイングランド・クラムチャウダー。
州最大の都市はボストン、よってボストン風とも呼ばれる。
これはクリーム仕立てだから
ちょっと見はホワイトシチューのようだ。

アンディ・ウォーホルのポップアートで一躍有名になった、
キャンベル社の缶入りクラムチャウダーもこのタイプ。
缶詰にミルクを加えて温めるスタイルをとっている。
ミネストローネやマッシュルームクリームなどが揃う、
スープシリーズの中ではこのクラムチャウダーの出来が一番よい。

マンハッタン・クラムチャウダーは別名ニューヨーク風。
こちらはトマト仕立てでイタリア系移民が多いニューヨークならでは―。
クリームとトマト、どちらも好きだが
マンハッタンはスペイン名物のガスパチョみたいに
冷製もまたイケるところが秀にして逸である。

ロードアイランド・クラムチャウダーには滅多にお目に掛かれない。
アメリカでは珍しい清まし仕立てはクラムコンソメといった風。
日本のはま吸いに最も近い。
スープとして飲まれるよりも冷したコレを
ミックスドリンクのブラッディ・メアリーと合わせて
楽しむ向きのほうが多そうだ。

そもそもホンビノス(リトルネック)は
バラスト水に紛れ込んではるばる東海岸から運ばれて来た。
日本で最初に発見されたのは
東京湾最深部の千葉県・幕張海岸で1998年のことだった。

その後、大阪湾でも見つかっているが
もちろんこれは東京湾から移動したものではない。
大阪は大阪で米東海岸から渡来したのだ。
パナマ運河を通って太平洋を横断したのか、
大西洋から喜望峰を経てインド洋を越えたのか、
はたまた大西洋を横断し、
地中海を抜けてスエズ運河から紅海、インド洋を経由したものか、
その経路は確認されていない。

ホンビノスは外見がよくないものの、
アメリカで生食されるくらいだから味はすこぶるよろしい。
中国産はもとより、国産のハマグリと比較しても遜色がない。
近年はスーパーのみならず、
高級デパートの地下でも売られるようになった。

ただし、そのルックスのせいか値段はやや安め。
言わばアヒルの子の中に紛れ込んだ白鳥のヒナ的存在だ。
これをアンデルセンは”みにくいアヒルの子”と呼んだ。

=つづく=