2016年9月7日水曜日

第1442話 鯨にギヴアップ (その2)

半世紀以上も前の流行歌、
「南国土佐を後にして」を引きずり出して来たのには
ワケがある。
実は此度の主役が鯨だからである。
それもとてつもない鯨だったのだ。

あれは10日ほど前のこと。
川崎在住の友人と会わなければならぬ案件が生じ、
はて、どこで落ち合うかの? 
ということになった。

互いの住まいの真ん中をとれば、
田町か品川あたりが妥当なれど、
そこは相手にやさしい心根の持ち主、J.C.のこと、
先方により近いJR大森駅前で待合せた。

珍しくもアイスコーヒーなどいただきながらの会合は
1時間少々で終了し、一人になったのは14時半である。
さすがにこの時間から飲むのは早すぎよう。
かといってほかにやることもなし。
せっかく遠征してきたこともあり、
ここは一番、お天道様に背を向けて
ご法度の裏街道を歩いてみようかの?

ロータリーのある、駅東口のほうが
意に染まる酒場を見つけやすそう。
あいや待て、待て、
わざわざ新規開拓に及ぶこともないか、
以前訪れた店でいいじゃないか―。
記憶が確かなら14時か15時の開店だったハズだ。

線路沿いにちょいと南に下り、
見覚えのあるアーケードの商店街に入る。
およそ50m先の左手に
これも見覚えのある「大衆酒場 富士川」が暖簾を掲げていた。

(コイツはラッキーだったわい!)
ほくそ笑みながら前進すると、
身体が勝手に反応しちゃうんだネ、つい早足になってら。
白い暖簾の上には小ぶりの赤提灯が
十張(はり)も横並びに連なっている。

ガラスの引き戸を引いて入店した。
まだ15時前だってえのに
右手のカウンターには7名もの先客あり。
客と客の合間を選んで腰を落ち着けた。

さっそくにビールだろう。
生にするか瓶にするか・・・今日は生でいってみるか。
カウンターの中にはオニイさん、いや、オジさんが一人。
声を掛けようとしたその瞬間だった。
ちらり目を落としたメニューに”サービスタイム”の文字を発見。
何でも14~17時はサワー類がすべて150円均一とある。
反射的に生ビールの値段をチェックするセコいJ.C.であった。

=つづく=