亀有の「江戸っ子」でシロとレバの焼きとんを注文したところ。
壁に貼られた品書きに目がとまった。
この店では通常よく見られる塩とたれのほかに
にんにく辛たれ、そして蜜たれまで用意されていた。
極めてまれなケースである。
大勢で出掛けたときにはいろいろ試す手もあろう。
しかし、当夜は日本そば屋の「花かご」に廻る予定。
串は4本でじゅうぶんすぎるのだ。
よって見送りの巻。
さて、焼き上がったシロ&レバだったが
どちらもその質に不満が残った。
加えて下ごしらえが不十分。
もうちょっと丁寧な処理がほしい。
シロの下茹でが浅いため、チューイングガムを噛んでるみたい。
レバはレバで筋っぽいうえに火の通しすぎだ。
よみがえるのは同じ葛飾区・金町の「B」や文京区・千石の「H」。
安価な焼きとんでも優良店のそれは美味の極みに達している。
一息ついてあらためて店内を見回す。
客の八割方は男だ。
立錐の余地がないとは言わないまでも満員御礼に近い。
ビールが空いてボールに切り替える。
ここで隣りのオジさんに話し掛けられた。
「近所の人ッスか?」
「いえ、上野のほうからです」
「あっ、そう、わざわざこの店まで?」
「そういうわけじゃないんですが、これから近所でもう1軒」
「ふ~ん、ハシゴかネ、だけどここのモツは旨いっしょ?」
「ええ、そうですネ、1本90円なら御の字ですネ」
オジさん満足そうにうなづいてボールのグラスを掲げる。
こちらもつき合って合わせる。
「モツ焼きはネ、おまかせ4本のみつくろいってのがあるんだけど、
それ頼むのが一番いいッス、いろいろ食えるから」
なるほど独り飲みなら4種1本づつ、それが一番だ。
その後、しばらくとりとめのない会話を交わし、
軽く会釈して「江戸っ子」をあとにした。
そうして向かった先で眼張の洗礼を浴びたのだ。
そのまますぐ帰る気にもなれず、
隣り駅の綾瀬まで歩くことにした。
くれなずむ並木道にはアブラゼミとヒグラシだろうか・・・
すさまじいばかりのせみしぐれ。
命短し、恋せよ、セミたち。
眼張なんかでメゲてられないや。
セミに力をもらったものか綾瀬を行きすぎ、
東京拘置所の脇を抜けて北千住まで歩いちまったヨ。
=おしまい=
「江戸っ子」
東京都葛飾区亀有5-32-1
03-3605-0619