2016年9月13日火曜日

第1446話 鯨にギヴアップ (その6)

「大衆酒場 富士川」の鯨メニュー。
せっかく大森にやって来たんだから、
多々あるうち、思い出の詰まった竜田揚げを選ぶ。
生姜焼きやステーキに興味はあったが未練はない。

レモンサワーは早や3杯目を数えている。
突き出しのマカロニサラダだけで3杯だもんなァ。
ちょいとペースダウンしなきゃなァ。
もっとも小さいジョッキに氷が目いっぱいだから
酔いなんかぜんぜん回ってこない。

かんかん照りの昼下がり。
カウンターには単身飲みが自身を含めて4人。
二人連れが1組で計6人。
みいんなオッサンである。
1組を除いて孤独感満載だ。
よって言葉を交わさなくとも連帯感が生ずる。
それぞれにそれなりの人生を送ってきた男たちだろう。

竜田揚げが揚げ上がって運ばれ来た。
ん? んん、ん~ん!
何だか妙な匂いが立ちのぼってきたゾ。

第一に揚げ油がよろしくない。
第二に鯨の質もよろしくない。
明らかにどちらも劣化が進んでいる。
一片をつまんで口元に運んだものの、
意を決しかねて、いったん皿に戻す。
いや、ちゅうちょしやしたネ。
リリーじゃないが立ち止まって考えた。

エイヤッ、浜口親子にあやかり、気合いで口に押し込む。
ありゃりゃ、臭気もさることながらこの鯨、
固いのなんのっ、とてもとても噛み切れやしないヨ。
行儀が悪いが右手には箸、左手は鯨を掴み、
両手と歯の三角攻めで喰いちぎりを試みる。

結局は薬局、どうにか半片を嚥下しただけでギブアップ。
その後も舌の上と左手の指先に
異臭が残って消えてくれない。
口直しに赤しそ風味のバイスサワーを頼み、
洗い流しを図ってみたが効果はほとんどナシ。
皿の上はまったくの手つかずに等しい。
まっ、この状態が無言のメッセージとして伝わるだろうヨ。

会計を済ませたら一目散にステーション。
トイレに駆け込んでうがいと手洗いを敢行したJ.C.でありました。
いや、マイッたぞなもし。

=おしまい=