2016年11月21日月曜日

第1495話 昼下がりの横浜 (その6)

京浜東北線で横浜から一つ東京寄りの東神奈川にいる。
JR東神奈川駅はもう1本、横浜線(通称ハマ線)が通っており、
東京の八王子につながっている。
驚いたことにハマ線の開駅(1904年)のほうが
京浜東北よりも数年早い。

おそらく明治の日本において主産業だった生糸を
群馬や秩父地方から運んだのだろう。
そして横浜港から海を渡って欧米に輸出されたのだろう。
その縁で横浜と中部フランスのリヨンは
今でも姉妹都市の関係にある。

明治の文人、永井荷風は文壇に登場する以前、
横浜正金銀行(のちの東京銀行、現在の東京三菱UFJ)の
リヨン支店に勤務していた。
銀行での仕事が嫌でイヤでたまらなく、
その心痛は彼の著書、「ふらんす物語」に詳しい。

東神奈川駅のすぐそばに京浜急行の仲木戸駅がある。
ペデストリアン・デッキ(歩道橋)でつながっており、
J.C.はその足下にある「根岸家」のカウンターを
一晩の止まり木としたところだ。

壁の品書きは眺めているだけで楽しい。
サカナの揃えが多彩なのは近くにある横浜市場のおかげだ。
瓶ビールを独酌しながら壁を見上げていたものだから
手元おろそか、液体をグラスからあふれさせた。
世の中には親切な方がいるもので
左隣りの客が拭き取ってくれたではないか―。

お礼を言いながら尊顔すると、四十路半ばだろうか、
目元涼やかなご婦人であった。
残念なことに彼女の隣りにはツレの男性、
何となく不機嫌そうだから会話のきっかけともならず、
独酌の世界へと舞い戻る。

こぼしたビールはキリンの一番搾り。
この店にほかにキリンのラガーがあるだけだから
あくまでもキリン攻め。
キリン発祥の地、横浜ではこういう店が多い。
当日の午後、友人たちと飲んだ中華街の「山東」は
珍しくもサッポロだったけどネ。
これは営業マンが頑張ったか、
特段のバックリベートのおかげであろうヨ。

そんなことよりサカナであった。
突き出しの切干し大根をつまみながら選択に迷う。
迷うというより悩みに悩みやしたネ。
いったい、どんなメニュー何だ! ってか?
そうでしょう、そうでしょう、ご覧になりたいでしょう?
以下、次話で。

=つづく=