2016年11月11日金曜日

第1489話 うな重だけではもったいない(その8)

地域の人気うなぎ店、「稲毛屋」での夕餉もいよいよ大詰め。
福島の奈良萬を重ねつつ、うなぎの焼き上がりを待っている。
その間、うなぎ談議に花を咲かせた。
小さん師匠と同様にわれわれはともにうな重ではなくうな丼派。
そしてタレ控えめが好みのアッサリ派である。

今となっては庶民には手の届かないところに咲く、
高嶺の花ならぬ、高値の花となってしまったうなぎ。
卵から育てる完全養殖があと一歩の段階まで進んでいると聞く。
牛丼みたいな安価は望むべくもないが
より大衆価格に近づくことは可能であろう。
その日が来るのが待ち遠しい。

そうこうしているうちに
「お待ちどうさまでした」―2鉢のどんぶりがやって来た。
理想的なバランスの蒲焼とごはん
いいねェ、いいですねェ。
これが<1900円+税>である。
安くはないが良心的な値付けではなかろうか。

よだれ湧き出る口中にまずはそのまま1片を投じる。
やや小ぶりな個体につき、クドい脂っこさとは無縁である。
おもむろに粉山椒を振り、さらに食べ進む。
うむ、何はともあれ、うなぎには山椒だ。
毎日食べたいとは思わぬものの、
やはりタマには訪れたいうなぎ屋である。

あえて肝吸いは頼まなかった。
肝は存分にいただいたからネ。
食べる速度の遅いJ.C.が道半ばに差し掛かった頃、
相方のどんぶりはすでにスッカラカン。
文章の書き上げだけにとどまらず、
これもまた一気呵成と言うのであろう。

かように飲んで食べての支払いは二人で1万5千円に満たない。
鮨屋ではとてもとてもこうはいくまい。
となると、うなぎはまだまだ、
どうにか庶民の手の届くところにあると言えないこともない。
きわめて満足度の高い一餉であった。

時間制限にしばられるランチタイムはべつとして
うなぎ屋に来てうな重だけで帰るのはあまりにもったいない。
レバやヒレはどこの店にもあるわけではないが
最低限、肝焼きは注文しておきたい。

その際は2本お願いして1本は酒の肴に
もう1本はうな丼の蒲焼の脇にバラし、
うな肝丼として楽しむのがオススメだ。
さすれば、より美味しくいただけること請け合いであります。

=おしまい=

「稲毛屋」
 東京都文京区千駄木3-49-4
 03-3822-3495