2016年11月4日金曜日

第1484話 うな重だけではもったいない (その3)

なおも小さん師匠のつづき。

うなぎ屋の少ない上野・湯島界隈だが
「小福」の前の昌平橋通りを南に下ると、
ほどないところに名店「神田川本店」が控えている。
こちらを贔屓(ひいき)にしたのは
黒門町の名人と謳われた八代目桂文楽。
言わずと知れた五代目柳家小さんの師匠である。
師匠思いの小さんは陰になり日向になって晩年の文楽を支えた。
文楽が退いたのち、
圓生をはさんで落語協会会長に就任した小さんは
文楽の自宅があった場所の真向かいに協会本部を移す。

うなぎ好きの小さんが「神田川」を訪れたのは
一度や二度ではあるまいが
師匠のホームグラウンドを自分の庭とするには
遠慮があって敷居も高かった。
大店(おおだな)の老舗「神田川」に比べて
はるかに知名度の低い「小福」のほうが
自分の分に相応しいと考えたことだろう。

常に清廉潔白を志した五代目柳家小さん、
こんなに人の好い噺家はほかにいない。
お天道様はちゃあんと見ていて
人間国宝の栄誉をお与えなすったんだネ、きっと。
そうだヨ、そうに違いない。

「小福」
東京都文京区湯島3-36-5
03-3831-7683
 
でありました。
長文のおつき合いに感謝します。

さて、今回訪れたのは柳家小さんならぬ、
古今亭志ん生(これまた五代目)が棲まった、
道灌山下に暖簾を掲げる「稲毛屋」である。
何年ぶりになるだろう。
チェックしてみたら9年ぶりだった。
 
その後、何度か店の前を通りすがったが
ほとんど毎度、「本日は予約で満席となっております」―
かような札が掛けられている。
エリアでは相当な人気店であることに疑いの余地はない。
 
よって此度は半月前に予約を入れておいた。
利用時に注文しても「売り切れました」―
空振りに終わる稀少部位もちゃんとリザーブしておく。
稀少部位とはヒレやレバのことだ。
 
当夜の相方は滞米時代の旧友・T田サン。
こちらもほぼ10年ぶりの再会であった。

=つづく=