2017年1月3日火曜日

第1528話 わさび愛しや (その3)

自宅での独りめし、というより独り飲みである。
卓上に並んだ刺身と板わさのためにわさびをおろす。
まずはかまぼこを一切れ。
小ぶりなそれは安価な市販品である。
しかしながらフレッシュな本わさびのおかげで
俄然、魅力を発揮してくれる。

謹んで感謝するつもりで残り少ないわさびに視線を移した。
いや、美しい!
思わず目を瞠った。
余命いくばくもないその姿は心打つものがあり、
滅びゆく美学を強く感じさせる。
デジカメを取り出し、一撮したのでご覧くだされ。
ちょいとした生け花ですな、コレは!
購入から1ヶ月半にならんとするのに
いまだ健在、茎・葉が育ちつつある。
生きとし生けるものの実存をあらためて意識させられた。

わさびの尻に敷かれているのがくだんのプラスチックおろし板である。
大根や山芋をするには不向きながらわさびにはピッタリ。
100円ショップに文明の利器があった。
本わさを飼い始めて30年、J.C.が言うんだから間違いはない。
刺身やそばをより美味しく食べたい向きは
近所の100円ショップに
ひとっぱしり、はしりねェ!

真鯛の背身とばちまぐろの赤身の旨さに加え、
ほどよい酔い心地も拍車をかけて
なんだかわさびが愛しくなってきた。

  ♪       雨も愛しや 唄ってる
     甘いブルース  ♪

フランク永井のCDを聴きながら
なおも酒盃を重ねると、
頭の中を新たな歌詞がスラスラと流れ出した。

  ♪    あなたをすれば 香り出る
     辛味どうかと 気にかかる
     ああ 卓に独りのマイ・ルーム
     
わさび愛しや 育ってる
     淡いブルーに
     あなたと私の合言葉
     「まぐろの赤身食べましょう」  ♪

        (作詞:J.C.オカザワ)

ハハ、悪乗りもいいところですな。
失礼いたしやした!

=おしまい=