2017年1月20日金曜日

第1541話 年の瀬の米沢 (その3)

山形南部は置賜地方の中心都市・米沢にいる。
小ぢんまりとしたフツーの居酒屋「弁慶」のカウンターだ。
白子ポン酢が整うあいだ、突き出しの小鉢に箸をつけた。
こういう店が出しがちな小菜は
文字通り、菜っ葉の煮びたしである。
ほかに油揚げと白滝が混じり込んでいる。

んむ、青菜がやけに旨い。
東京は江戸川区特産の小松菜の上をゆく。
ほうれん草のようにヤワではないし、
かぶ葉・大根葉みたいにカタくもない。
でも、風味はそのどちらかに一番近い。

米沢のお隣り、長井名産の雪菜だろうか?
いや、それにしては緑が濃いから近隣種の仙台雪菜かな?
近頃めっきり小回りの効かなくなった、
頭を回転させてはみたものの、決め手は浮かんでこなかった。
あえなく降参の巻である。

「オヤジさん、この青菜はいったい何ですか?」
「あっ、そりゃ葉大根なんす」
「葉大根? 大根の葉っぱってこと?」
「ええ、そうなんすが、そうでもないんす」
「・・・??」
「葉のほうだけ食べる変わった大根で
 ほっといても大根はできてこないの―」

ふ~ん、なるほどネ。
初めてお目にかかった。
「なかなか旨いもんですネ」
「そうでしょう、わたしゃ大好きっす」
この店主、なかなかデキるな・・・そう思ったことである。

2杯目の生ビールを追いかけるようにして
白子ポン酢が運ばれた。
乳白色のプリッとしたヒダヒダがなまめかしく、
オールモスト・エロチックだ。
こんなん丸々一鉢ヤッツケたら欲情しちゃうんじゃないだろか?
(結局、何の反応もなかったがネ)

海のミルクに満足して何かもう一品と思い、
何気なしに振り返ると、壁に1枚のボードがぶら下がっている。
んん? 何だ、何だヨ、
これこそが「本日のおすすめ」の料理ボードときたもんだ。
初手から言うてくれいっ!
マイッたぞなもし。

遅ればせながら吟味に入ったJ.C.でした。
やれやれ。

=つづく=