2017年1月9日月曜日

第1532話 行動開始は二日から (その2)

浅草はすし屋横丁の「三岩」にやって来た。
卓を埋める客はほとんどが中高年、
それもオトコばかりだ。
いかにも浅草にありがちな昔ながらの酒場兼食堂は
オヤジたちに居心地がよくても
若いカップルには見向きもされない様子である。

風に冷たさを多少感じたものの、
晴天の下を歩いてきたから身体はじゅうぶんに温まっている。
冷えたビールの旨さは格別だ。
いつものように最初の1杯を一気飲み。
2杯目を注ぎ、品書きを吟味する。

「三岩」の必食アイテムは一にも二にも穴子天ぷら。
しかしソイツは日本酒に切り替えてからにしよう。
よって、かきフライをお願いした。
かきが揚がるまでの間はすぐ出る一品でしのぐとしよう。

壁に貼り出された短冊に皮つきべったら漬を見つけた。
わざわざ”皮つき”を謳っているのは自信の表れだろう。
皮をむいてしまうと独特の歯ざわりが薄れるからネ。
ポリポリッとやってグビグビッ、いやはや旨いのなんのって。

かきフライの用意が整った。
小粒のかきがきめ細かいコロモをまとっている。
去年の今頃にもここでいただいたが
その姿に寸分の変わりがない。
一粒つまんでパクリとやると、
一年前の味わいが口中によみがえるのであった。

かきフライはカリカリよりもシットリとしたタイプが好み。
粗めのコロモはとんかつにはよくてもかきフライには向かない。
有楽町の「レバンテ」、銀座の「煉瓦亭」、淡路町の「松栄亭」、
そんな名店に匹敵する仕上がりに深くうなづいた。
実に名品なり!

正月につき、数の子を注文する気になった。
カタチが小さく、見るからに上物ではないが
品書きには370円とある。
いったい原価はいくらなんだろう?
こんな値付けで儲けは出るのかネ。
隣りのオジさん二人組の前にも数の子が2鉢並んでいた。
ふむ、長く続くデフレの世の中、
安価は高価を駆逐するものよのぉ。

中瓶のビールは30分足らずで空っぽ。
燗酒をちょいと熱めで所望した。
銘柄は白鶴である。
白鶴・白鹿・白鷹、”白”を冠した清酒にまずハズレはない。
長年の経験が舌にそのことを教え込んだ。

=つづく=