2017年1月16日月曜日

第1537話 愛され続けて65年 (その2)

みちのく郡山にいる。
おそらくこの街でもっとも有名な店にいる。
街とともに65年を生き抜いてきた大衆食堂は
市民に愛されながら
旅人にも一献一飯の歓びを提供し続けている。

おっと、目の前に横たわる豚クンであった。
厚切りのポークソテーは肉質、火の通し、ソース、
いずれも水準をクリアしている。
問題はただ一つ、ガルニテュール、
いわゆる付合わせでありました。

前話のスナップからはよく判らないが
ポークの左側に添えられた品々は3点。
レモンスライス、ポテトサラダ、千切りキャベツである。
それぞれに何の落ち度もないけれど、これがよろしくない。

ポークソテーに限らず、ローストチキンにせよ、
ビーフステーキにせよ、ラムチョップにせよ、
温かい料理には温かいガルニが必要不可欠なのだ。
ただし、揚げ物は例外でポテサラ、キャベツは
とんかつや海老フライにはよくとも
ポークソテーや平目のムニエルにはいけません。

じゃあ、どんな付合わせがいいんだ! ってか?
J.C.がまだ大学に籍を置いていた頃、
もっぱら某ホテルでバイトに励んだが
そこでフランス料理のABCを学んだのだった。

温野菜のガルニテュールには
御三家ともいうべき定番があり、
仏語のメニューにはこのように記されていた。

① Haricot Vert  
② Carrots Vichy
③ Pommes de Terre Frites

①はアリコ・ヴェール。
緑のサヤインゲンだ。

②はキャロット・ヴィシー。
ヴィシーは中部フランスの保養地でミネラルウォーターの産地。

③はポム・ドゥ・テール・フリット。
大地のリンゴ=じゃが芋のフライである。

付合わせに温野菜がほしいけれど、
65年もの長きに渡って郡山市民の愛顧を賜った、
老舗中の老舗に些細なことでケチをつけちゃいけないネ。

=つづく=