2018年2月13日火曜日

第1808話 フラれぐせがついちゃいまして・・・ (その3)

こよなく愛する的矢湾産生がきに袖にされ、
それでも火を通されたソレを食べ継ぐ。
燻製のマリネにフライと、かきモノを連続していただき、
締めには定番のかきピラフをお願いしてある。

相方に好きなモノの注文を促すと
彼が選んだのはサーモンのチーズ焼き。
適度な焦げ目をまとった姿は
一見、サーモンステーキ風である。

こちらは箸をつけなかったので
お味のほうは何とも言えぬが
ここで突然、ある記憶がよみがえった。
たまたま旧友から聞いた笑い話だ。

もう20年以上も前、博多出身の彼と博多で
博多ラーメン(長浜ラーメンじゃないヨ)を食べてたとき。
その日の晩は肉でもガッツリ食べようか?
てなことになり、話題はビーフステーキに―。

彼が初めてステーキを口にしたのは
かつて銀座にあった仏料理店、
「コック・ドール」だったとのこと。
メニューにステーキと名の付くものは1種のみで
しかもワリと安かったため、即注文したそうだ。

テーブルに運ばれた一皿に彼は言葉を失った。
なぜならシャケの切身が目の前に横たわっていたから―。
メニューにはサーモンステーキと記されていた由。
サーモン=鮭、これが理解できなかったんだ。
いや、笑いました。

J.C.の「コック・ドール」デビューは1969年。
紅顔の高校三年生だった。
クラスメートと伊豆大島に旅した帰り、
竹芝桟橋から銀座に乗り込んだ。

注文は四人揃ってポークカツレツ。
本当はライスを食べたいのに
無理してパンなんかお願いしちゃってネ。
人生初体験の高級レストランがここだった。

そんなこんなを回想しながら
サーモンのチーズ焼きを平らげる相方をながめていた。
ここでハッと思い当たった。
再び前述した松本清張の「点と線」である。

殺人事件の犯人が東京駅のプラットフォームにて
目撃者に仕立て上げる料亭の仲居二人。
「レバンテ」でお茶を一喫したあと、
彼女らを夕食に伴うのが何たる偶然、
「コック・ドール」なのであった。
こちらも小説に実名で登場している。

しっかし、こんなこともあるんだねェ。
S口クンがサーモンなど頼まなければ
たどれなかった記憶の一すじ。
人生は実に小説より奇なり。
かきのピラフに舌鼓を打ち、
みちのくに帰る彼と握手を交わして別れました。

=おしまい=

「レバンテ」
 東京都千代田区丸ノ内3-5-1
 03-3201-2661