2019年12月18日水曜日

第2287話 サバ缶は苦手なれど (その1)

板橋駅からJR埼京線で1駅、
メガターミナル・池袋で西武池袋線に乗り換え、また1駅。
椎名町に来るのは何年ぶりだろう?
10年は無沙汰しているものと思われる。

椎名町の第一感は敗戦後まもない1948年に起きた、
忌まわしい事件だが、これには深くふれないでおこう。
地元の人たちも迷惑だろうし・・・。

北口に出て昭和の面影残す、
すずらん通り商店街のアーケードを抜け、
踏切を渡って向かったのは
江戸前シゴトもていねいな「松野寿司」。

町場の素朴な鮨屋ながら
このご時世に名店・佳店はその姿を隠しおおせない。
たとえ取材を拒んでも発掘の手が緩むことはない。
ソッとしとけばいいものを
他所からオジャマ虫が平和な町に侵入してくる。
おっと、自分もその一人でありました。

つけ台8席ほどの小体な店舗につき、
念を入れて10日ほど前に予約をしてあった。
すると、訪問日の前日。
何気なく立ち寄った書店でパラパラめくった、
「おとなの週末」最新刊にドカ~ンとグラビア3頁。
当店が大々的に取り上げられているじゃないの。
危ない、アブナい、仕掛けが遅れていたら
席の確保はままならなかったかもしれない。

L字形つけ台の角を削るようにして1席増やした感じ。
そこで単身の先客が肩をすぼめ、にぎりをつまんでいた。
彼の左隣りに着席して一番搾りの中瓶を―。
小さなグラスをクイッとあおって一息ついたとき、
鶴瓶を善人に置き換えた面貌の親方と目が合った。
言葉に出さなくともつぶらな瞳が
(どのようにいたしましょうか?)
と訊ねている。

「にぎりにならないモノをつまみで3品ほどいただいて
 あとはお好みでにぎってください」
「かしこまりました」
つけ台の状況はJ.C.の左に夫婦と倅の三人組。
右はくだんの肩身狭き人と、その隣りに常連らしき男性。
右端の2席は無人なれど、予約で埋まっているハズ。
おっつけ来店があるのだろう。

初っ端に供されたのは酒盃のように小さな器の一品。
「さばの水煮でございます」

=つづく=