2020年6月12日金曜日

第2414話 美人女将のおばんざい (その2)

♪   湯島通れば 思い出す
  お蔦主税の 心意気 
  知るや白梅 玉垣に
  残る二人の 影法師 ♪
  (作詞:佐伯孝夫)

かように歌われた湯島天神の白梅。
「婦系図 湯島の白梅」の舞台ともなった、
天神さま直下の交差点近く、
美人女将の「おばんざい 心」で飲み始めた。

555ml のジョッキとともに供された突き出しは
穂先の柔かいシナチク。
桃屋が自社製品を”穂先メンマやわらぎ”と名付けたアレだ。
ピリ辛の味付けに、もみ海苔があしらわれていた。

ジョッキはすぐに飲み干され、冷たい日本酒に移行する。
本日のオススメにあった播州一献を択ぶ。
播州は兵庫県南西部、かつての播磨の国だ。
播州となれば、第一感は赤穂浪士だが
この清酒は赤穂から内陸に入った宍粟市も酒造、
山陽盃の手になるもの。

鉱山の坑道で熟成させる純米酒は
ドッシリではないがスッキリでもない。
女性に例えれば、三十路を迎えた若後家といった味わい。
ん? どんな味なんだ! ってか?
いや、書いてる本人もよく判らんのですわ、ジッサイ。

大皿のおばんざいからキンカン煮をお願い。
これは柑橘の金柑ではなく鶏キンカン。
ニワトリの体内にとどまる未熟卵だ。
カニに内子と外子があるようにニワトリにもあり、
キンカンは内子、スーパーに並ぶ鶏卵は外子。
ちょいと火が通り過ぎながら、まずまずのデキ。

今度はは芋焼酎の茜霧島に切り替えた。
黒霧島を主力とする霧島酒造は
いろいろ色分けして造るが
これはオレンジ色の芋、玉茜を原料とし、
フルーティに仕上げた由。
言われると、そんな感じがしないでもない。
穂先のシナチクに柔らぎがあるように
茜のロックには華やぎがあった。

合いの手は同じく大皿にあった、
茄子と蓮芋(ずいき)の炊いたのを―。
ずいきは里芋や蓮芋の茎だが当店では蓮芋を使用する。
ずいきをカンピョウのように干したのが肥後ずいき。
今でも熊本県の特産品として”好事家”の間で珍重される。
若者は知るまいが江戸城大奥では大いに珍重された秘物だ。

当店の料理の味付けは
おばんざいの本場・京都よりずっと甘くて濃い。
江戸っ子の呑ん兵衛にはこのほうが合うのかもしれない。

白州のハイボールで締める。
計4杯いただき、女将にも1杯献上し、
突き出し、料理2品の勘定は7千円とちょっと。
割高感否めずとも、キャバクラやガールズ・バーより、
実があるし、健康的だ。
「心」だけに女将の接客ぶりにも
心の温もりを感じるのココロ。

「おばんざい 心(しん)」
 東京都文京区湯島3-35-2 第1杉山ビル2F
 03-3835-2144