2015年7月6日月曜日

第1135話 偶然の澄ましバター (その5)

41年前の昔ばなしで恐縮至極。
読者の中には
「バカバカしくて読んでられんわ!」―
お嘆きの向きもおられよう。
まあ、そう言わんと、先にお進みくだされ。
 
その日が非番でどこかに遊びに行った帰りだったのか、
あるいは早番で上がり、真っ直ぐ帰宅の途に着いたのか、
忘却のはるか彼方ながら
とにかく明るいうちにパーソンズ・グリーンの駅に帰着。
マイ・フラットのあるラディポール・ロードへは徒歩3分の距離だ。
 
明るいうちといっても6月のロンドンは21時を回ってなお明るい。
年間を通してベスト・シーズンにつき、
地元民、異邦人を問わず、誰もが6月を心から愛している。
よって、6月生まれのJ.C.は生まれ月に誇りを持っていた。
そう、ジューン・ブライドならぬ、ジューン・プライドでありますな。
 
エニウェイ、改札を出たところでバッタリMichelleと出会った。
もっともこの時点では互いの名前すら知らなかったがネ。
訊けば、彼女もこの町に棲んでいるというではないか。
へェ~ッ、そうかい、ここは君住む町だったのかい。
 
自分がもし関西人だったら
「茶ァ~でも飲まへんかァ?」―
軽いノリで誘ったことだろう。
しかし、長野生まれの信州人にかようなマネはできない。
できないけれど、小学校に入学する前から東京に暮らした身。
おおかたの信州人よりオンナの扱いにはたけている。
 
ただ、ロンドンといえども
市のはずれの小駅にキッチャ店なんかあるハズもない。
ないけれど、そこは霧の都、大都市ロンドン、
どこに行こうが、あちらこちらにパブがある。
 
「Let's have a drink or two ?」―
ヘヘッ、われながらスマートに誘ったもんだ。
5分後にはハーフパイント・オブ・ラガーのジョッキを合わせていた。
ちなみにロンドンというか、イングランドのパブにおいては
日本のビールにもっとも近いのがラガー。
軽い順から
ラガー→ブラウンエール→ペールエール→ビター→スタウトと
相成ってゆく。
日本でもなじみのギネスがスタウトだ。
 
飲み始めたら、a drink or two どころではなかった。
互いに5杯は空けただろうか?
話題は映画・音楽・小説・料理に及び、
数時間を過ごしたのち、再会を約して別れたのであった。
 
=つづく=