2015年7月15日水曜日

第1142話 あじ酢よければ えび丼またよし (その3)

「下町を食べる」がちょうど10年前なら、
これもまた10年前の夏。
当時、しょっちゅう一緒に飲み食べ歩いた神奈川生まれのN子を伴い、
しゃこの一大産地、神奈川県・三浦半島の小柴に遠征したことがあった。
むろんしゃこで一杯やるために―。

時刻は昼近くになっていたから港の市場は閑散もいいとこ。
というより人気(ひとけ)まったくなく、
猫の子一匹いなかったネ。

さすればあらかじめ調査しておいた鮨屋に直行の巻である。
N子も相当な呑み助につき、
しゃこわさと地魚の刺身をつまみに
二人で大瓶5本は空ける腹積り。
といううことは一人アタマ.1.5Lちょい、大した量じゃないねェ。
思い切って6~7本いっとこうか・・・。

想像をたくましくしながら、
ともかく心を踊らせてつけ台に着いた。
「ビールを2本としゃこをつまみで二人前お願いしまッス!」―
声高らかに宣誓布告した。
何だか声まで弾んできやがったぜ。

ところが次の瞬間、絶望の淵へと追い落とされたのであった。
「ここんとこしゃこが獲れなくて
つまみにするほどないんですヨ。
お一人様、にぎり2カンのみでお願いしてます」―
申し訳なさそうな店主を責めることはできない。
品薄とは聞いていたが、まさかここまでとは・・・。

結果、ビールは4本で済んじゃいました。
代わりにもならないけれど、
駅前のベーカリーでしゃこパンってのを買ってきた。
まったくしょうもないねェ。
あれからしゃこの水揚げ量は低下の一途をたどったわけだ。

ひるがえって今年。
自著の文中にあるように
近年、築地の「小田保」に来るともっぱらあじ酢を楽しむJ.C.である。
皮目が光り輝くあじ酢
ご覧のようにその日も
オニスラに続き、あじ酢をお願いした。
品書きを見ると、あじ酢の隣りにはたたきが並んでいたが
たたきは苦手、生まれてこのかた注文したためしがない。
ましてや、なめろうに至ると輪をかけていけない。

あじは酢の〆具合が浅めながら、冷たいビールの”連飲”をうながす。
昼めしのえび丼を目当てに来たものの、
ここでビールのお替わりクンと相成った。

=つづく=