2015年7月2日木曜日

第1133話 偶然の澄ましバター (その3)

鳥取沖で捕獲された生本まぐろを
静岡産の生本わさびとともに堪能している。
肉割れの赤身は期待通りの美味で応えてくれている。
自室に流れるBGMは倍賞千恵子だ。

 ♪   何も言わないで ちょうだい
   黙ってただ 踊りましょう
   だってさよならは つらい  
   ダンスの後に してね  ♪
      (作詞:横井弘)

「さよならはダンスの後に」、好きだなァ。

CDを倍賞千恵子からザ・ピーナッツにチェンジ。
「心の窓にともし灯を」を聴き始めた。
彼女らのナンバーでは好みじゃないけれど、
今宵の主役は歌手ではなく作詞家、このまま聴き続ける。

この曲は行きつけの浅草のスナックのママの持ち歌。
そんなことを思い出しながらの日本酒は2杯目になった。
何だかかったるくなっちゃったぜ。
キッチンに立つのが億劫である。
それでもマカロニサラダだけは作らねば―。

大きめの鍋に水を張って火にかけた。
そうしておいての清酒・ねのひは3杯目。
すでに曲は横井サンの作詞ではないが
ハーモニーに優れたピーナッツの歌声が耳にやさしい。

けっこうな時間が経過したのち、われに返った。
あわててキッチンに戻ると、
ありゃりゃ、鍋の湯が蒸発して半減しちゃってら。
こいつはアカン、水道水を補給した。

ふと、ガスレンジの脇に目をやると、
そばに置いたポットのバターが溶けてしまい、
液状化の憂き目を見ているではないの。
上半分がいわゆる済ましバター状態になっている。

直火ではない間接的な熱のせいで
湯煎と同じ状況下に置かれたんだネ。
フランス料理界ではこれをブール・クラリフィネと呼ぶ。
クリアなバターという意味だ。

キッチンに澄ましバターの香りが立ち込めている。
偶然とはいえ、よてもいい匂いだ。
ここでわが想いは突然40年前にぶっ飛んだ。
これについては後述するとして
熱湯にマカロニを投入するJ.C.であった。

=つづく=