2019年5月30日木曜日

第2143話 幻魚はやはりマボロシだった (その1)

ゲンゲなるサカナをご存じだろうか?
名称の由来はゲのゲ。
下の下、下魚中の下魚ということだ。
見た目不気味にして
腐敗しやすいうえに、食味もよろしくない。
以前はまったくもって
箸にも棒にもかからねぬ代物だったようだ。

姿カタチは三陸沖でよく獲れる、
ドンコに似ており、サイズは二回りほど小型。
ドジョウの髭を抜き、色白にすれば、
こんな感じになるかもしれない。

それはそれとして
旧知の友人からレンラクがあった。
何でも彼女の娘サンが
魚介料理のフルコースを作ることになったので
相談に乗ってやってほしい、との依頼。
成行きからそのお嬢サンと買い出しをする破目に—。

行く先はJR御徒町駅前のサカナのデパート「吉池」。
どうせなら最上階の「吉池食堂」で食事をしてから、
ということになった。
実はJ.C.この、ビルのはす向かい、
ガード下にある吉池直営の居酒屋「味の笛」は
ひんぱんに利用するくせに「吉池食堂」は初訪問だ。

お嬢の名前はY美チャン。
20数年ぶりの再会である。
ずいぶん大きくなって女らしくなったこと。
そりゃそうだヨ、当時は小学生だったもんネ。
「今日はよろしくお願いします」
「まっかせなさ~い!」
挨拶もそこそこにエレベーターで階上へ。

ヒエ~ッ!
イメージを覆すほどにオサレな空間じゃないの。
シティホテルのラウンジ風だ。
西側の窓際が特等席で、上野のお山の緑が臨め、
夕暮れどきは落ちる夕陽がさぞ美しかろう。

テーブル席のほかにダイニング・カウンターがいくつか。
これならサクッと飲みにも最適だ。
もっと早く来ればよかったぜ。
出遅れを悔やむ自分がいた。
ただし、この段階では何も口にしてないから
再訪の機会、ありやなしやは不透明なり。

通されたのは窓と反対側の薄暗いフロア。
これはエレベーターを降りたとき、
視線が明るい窓際に移るため、
その反動として実際以上に暗く感じたのだろうヨ。

=つづく=