2020年3月3日火曜日

第2341話 吉原・山谷・泪橋 (その2)

山谷という土地柄に不釣り合いなほど、
立派なアーケードが撤去されたのは
シャッターストリートと化しつつある、
商店の減少もさることながら
集まり来るホームレスを排除するためだ。
経済的に困窮する社会的弱者に
雨露をしのぐことすら許さぬ行政っていったい何なんだ!

♪   人は山谷を 悪くい
  だけど俺たち いなくなりゃ
  ビルもビルも 道路もできゃしねぇ
  誰もわかっちゃ くれねえか  ♪

実際に手を下したのは台東区だろうが
資格もないのにこの国のトップに連座する輩のツラが
走馬燈の如くに回り出す。

ポチ、ひょっとこ、茶坊主、
加えてポチに連れ沿う中華まんじゅう。
ありゃ、ただの中華まんじゃないネ、
三日前の中華まんだヨ、ったく。

様相変わり果てた商店街を抜け、吉野通りに出た。
角にある日本堤交番のかつての名は山谷地区交番。
日本最大の規模を誇ったため、マンモス交番と呼ばれた。
山谷暴動の際に焼き討ちにあったのもココ。

その交番の数軒先に「大林」が今も健在だ。
J.C.が勝手に作った指標ながら
タイムスリップ度数では東京都ナンバー・ワンの酒場なり。

♪   一人酒場で 飲む酒に
  帰らぬ昔が なつかしい
  泣いて泣いて みたって何になる
  今じゃ山谷が ふるさとよ  ♪

引き戸を引いて耳を疑った。
確か、
いらっしゃいませ~」と小さく聞こえたような・・・。
ここのオヤジさんは不愛想どころか、
日によっては剣呑ですらある。

いつぞや、東海林さだおサン、中野和雄サンと
3人でオジャマしたときなど、
普段から血色のよい中野さんに向かって
「アンタ、飲んでんじゃない?」―
こうきたもんだ。
「飲んでない、飲んでない!」―
中野サンが必死に防戦する一コマもあった。

とにもかくにも酔っ払いは入店禁止である。
そんなオヤジのことだから
さっきの一言は空耳だったかもしれないネ。

=つづく=