2020年3月2日月曜日

第2340話 吉原・山谷・泪橋 (その1)

この日は首都圏に棲んでいながら
東京に疎い友人を引率して下町飲み。
変わった”とこ”に連れてって、
との仰せに一計を案じた。

待合せたのはJR鶯谷駅北口改札。
ところが、なぜか丘の上の南口に出た相方を
谷の底の北口へと呼び戻す破目に―。
電話でナヴィゲートしてもチンプンカンプン。
ラチがあかないから、駅員さんにお願いし、
改札から改札をプラットフォーム経由で
移動させてもらえるよう、指示を出した。
ハァ~、これだから世間知らずは厄介なんだ。

待つ間、改札前の町中華「大弘軒」を見やって驚いた。
何と、チャーハンが復活を遂げている。
去年の夏、初めて食べたチャーハンに魅了されたものの、
料理人が次々に去り、メニューから消えていた。
これは早急に出向かねば―。

ようやく落合った相方を引き連れ、
都内最大のラブホ街を縦断。
ここ数年、明るいうちから街角に立つ、
その筋の女性がめっきり減った。
というより、ほとんど見かけなくなった。
夜更けたら状況は変わるのだろうか?

入谷の交差点を過ぎ、金美館通りを東へ。
浅草観音裏の目抜き、千束通りに並行する花園通りを歩む。
東西南北、碁盤の目のようなエンコの道筋にあって
この2本が斜めに走っているのは
吉原の妓楼における、全ての部屋の北枕を避けるため。
げに昔の人の知恵は偉大なり。

花園通りはその名が示す通り、花園・吉原へと続く。
旧江戸町、旧京町には
おびただしい数のソープランドがひしめく。
あまりの壮観に相方は言葉を失い、肝をつぶしている。
こんな場所は独りじゃ歩けんぜ。
どうだい、変わった”とこ”だろう?
吉原大門の見返り柳を尻目に山谷地区へと廻った。

♪   今日の仕事は つらかった
  あとは焼酎を あおるだけ
  どうせどうせ 山谷のドヤ住い
  ほかにやること ありゃしねぇ ♪

岡林信康の歌声が耳にこだまする。
桜専門の精肉店、
「馬肉の千葉屋」の先を右折してビックラこいた。
ここは山谷地区随一の商店街で300mも続く、
いろは会  ショップ・メイトの入口だが
立派なアーケードが全て取っぱらわれている。
いったい何が起こったのか?

のっぺらぼうの雨ざらしとなった通りを歩いて
突然、ハタと思い当たった。
ハハ~ン、そういうことか―。
行政の野郎ども、オメエらやりやがったな!

=つづく=