2022年9月7日水曜日

第3097話 44年が経ちました (その1)

エンコの街にはしょっちゅう来るが
久方ぶりの「弁天山美家古寿司」。
つけ台の真ん中寄りに相方と二人、
陣を張らせていただいた。
こちらから見て左手に五代目、
右手に六代目の両親方がつけ場に並び立つ。

ドライの中瓶を注ぎ合ってカチン。
突き出しはサッとゆがいた北寄貝の柱とヒモの甘酢。
此処におジャマすると、つまみは1品程度にして
すぐににぎりへ移行するのが常だ。

鮨種のケースに今が季節の新イカを見とめ、
「新イカをつまみでもらったら
 無くなっちゃいますよネ?」
「新イカと新子はお一人様1カンでー」と五代目。
新イカはスミイカの幼少期、新子は小肌の幼魚だ。

通したぬたは赤貝のヒモと新イカゲソ入り。
ぜいたくな組合わせは美味くないハズがない。
ぬたとなれば、すし屋通りにあった、
今は無き「三岩」を思い出す。
あちらはまぐろの赤身入りで
下町らしい素朴な味わいがあった。

一昨日、浅ブラしていたら
「三岩」の跡地に「人民公社食堂」なる、
台湾料理屋が営業していた。
スゴい名前を付けるもんだな。

中瓶を追加して、にぎり。
お好みながら二人とも同じものを
2種類づつ通してゆく。
てんでんバラバラでは計算が煩わしく、
親方たちが集中できなくなるからネ。

これは鮨屋における作法で
銀座のホステスみたいな無茶はいけない。
とはいえ、マナーをわきまえたコもいるがネ。
近頃あまりおジャマしてないけどー。

用意、スタート。
皮切りはひらめ昆布〆&新イカ。
44年前、初めて「美家古」で口にしたのも
この昆布〆だった。
はっきり言ってあのときのまま、実に味わい深い。
新イカは柔らかく繊細、旬を食する実感があった。

3番・4番は新子にキス。
新子も季節感満載。
「どこで揚がるんですか?」訊ねたら
「静岡です」と六代目。
「じゃあ、駿河湾かな」
「山じゃ獲れないからネ」混ぜっ返したのは五代目。
可憐な肌合いのキスにはおぼろが忍ばせてあった。

=つづく=