1958年12月19日夜。
絶頂期のディーヴァ(歌姫)を
あますことなくとらえた、
貴重な映像をあらためて楽しむ。
大きなスクリーンで観ると、
ひと味もふた味も変わってくるものだ。
彼女の存在感に圧倒された。
第17代仏大統領、ルネ・コティをはじめ、
列席するスターの顔ぶれも破格。
ジュリエット・グレコ、ブリジット・バルドー、
ジェラール・フィリップ、イブ・モンタン、
チャーリー・チャップリン、
かくもカラスは愛されたのだ。
ちなみにこのひと月後、
ルネ・コティの後を継いだ第18代大統領が
シャルル・ド・ゴールである。
ガラ・コンサートは2部構成。
1部はアリアが中心。
十八番の「ノルマ」(ベッリーニ)から
「清らかな女神よ(カスタ・ディーヴァ)」。
「イル・トロヴァトーレ」(ヴェルディ)からは
「恋はばら色の翼に乗って」。
「セビリアの理髪師」(ロッシーニ)の「今の歌声は」。
2部は一転して
オペラ「トスカ」(プッチーニ)第2幕の実演。
舞台は1800年、侵攻したナポレオンが
共和派に勝利をもたらせた、その夜。
ローマの悪徳警視総監・スカルピアの執務室は
ファルネーゼ宮殿内という設定だ。
ちなみにこの宮殿は1874年以来ずっと
フランス大使館として使われている。
カラスの歌唱もさることながら
スカルピア役のバリトン、
ティト・ゴッビがすばらしい。
何か細工でもしたんじゃないかと疑いたくなる、
巨大な鷲っ鼻が悪役にドンピシャリ。
その容姿からでもなかろうが
「リゴレット」(ヴェルディ)の
タイトルロールを当たり役ともした。
リゴレットは姿奇怪なせむしの役どころだからネ。
終映は16時。
相方は感動に打ちのめされている。
これではこのまま帰すわけにはいきません。