2022年9月8日木曜日

第3098話 44年が経ちました (その2)

相方と一緒に大関の上燗に切り替えた「美家寿司」。
5番・6番は赤貝と車海老だ。
はまぐり不在のこの時期、赤貝が貝の王者である。
この質感はみちのく閖上の産に間違いなかろう。

車海老もおぼろをカマせて供された。
上品な甘みが口内に拡がる。
江戸前鮨の海老は車の独壇場だ。

真鯛の松皮造りと酢〆の真あじが7番・8番。
ともに江戸前シゴトを施され、美味さ倍増。
真鯛&真あじだけに真っ当であった。

9番・10番は縞あじにかつお。
サカナの目利きの賜物だろう。
モノがいいから味わいに奥行きがある。

にぎりのトリの11番・12番。
これだけはどちらも穴子、2カンづついただく。
まずシモ(下半身)を煮きりでー。
続いてカミ(上半身)は煮つめだ。
「美家古」の穴子に出逢ったとき、
あまりの美味さに身が震えたのを覚えている。

13番は玉子。
腹がふくれてきたため、酢めしなしでお願いした。
カステラ状の焼き上がりは
魚介のすり身の成せる業だが
ひらめかな? 芝海老かな?
わが味覚判じ得ること能わず、まだまだだネ。

大トリの14番は巻きもの。
いつものようにおぼろを巻いてもらう。
鉄火・かっぱ・かんぴょうより、おぼろが好み。
あとは山葵だけというのもいいネ。

初めて当店を訪ねたのは1978年。
長いこと途切れていた、
隅田川の花火が復活した年だった。
すでに名声を大江戸に轟かせていた「美家古寿司」。
心して乗り込まねばと、予習をして出かけた。

TVでおなじみの料理研究家、
土井善晴氏の父君、土井勝氏が著したムックに
「本物の味を訪ねて」があり、
当店を詳しく紹介していた。

江戸前鮨の食べ方の最初は白身、そして光り物。
これを実践すべく、
ひらめの昆布〆と小肌で始めた。
目の前には現在の五代目。

背中を向けて玉子を焼いていた先代の四代目が
その注文を聞いてクルリと振り向き、
J.C.の顔を見てニヤリと笑った。
玉子をせがれに任せ、自らにぎってくれたのだ。
美家古通いの始まりはあの夜である。

あれから44年。
多くのことを教えてくれた亡き四代目親方、
内田榮一氏は今もJ.C.の心の師匠。
尊敬してやむことがありません。

「弁天山美家古寿司」
 東京都台東区浅草2-1-16
 03-3844-0034