浅草は雷門通りの「尾張屋本店」。
2階に上がり、さて、何にしようかな?
ここでは天ぷらそば、
かしわ南ばん、しそきりなどを食べた。
そうだ! おかめそばをいってみよう。
ノビないうちにそばをツルツルやって
おかめの顔をつまみとしよう。
着卓したどんぶりが
笑みを浮かべてこちらを見つめている。
うむ、なかなかにカワユい。
眉は結び湯葉、両のまなこはかまぼこ、鼻が竹の子。
どうやらおかめはハスに構えているようだ。
鼻筋がちょいと横を向いている。
したがって手前に位置する右頬は大きい焼き麩、
奥の左頬は小さいナルト。
口元が出汁巻き玉子という配置。
ほかには柚子皮1片とみつばが散っていた。
しなやかな細打ちそばに穏やかなつゆ。
さすがにトップレベルの美味しさである。
荷風の時代はもっと太く、味も濃かっただろうな。
時代とともに洗練され、上品な味わいとなった。
ほとんどの客が天ぷらそばか天重を注文する。
ここまで海老天に集中する店はまれだ。
2階は階段の上がり口と一番奥に小上りが二箇所。
子連れ客が上がり口の畳に座った。
子どものうちから
「尾張屋」のそばが食べられるのはシアワセだ。
「尾張屋」は万延元年(1860)創業。
文学好きなら大江健三郎が思い浮かぶ。
お勘定は2000円ちょうど。
1階の状況を一べつし、
帳場のオニイさんに「ごちそうさま!」。
雷門の前を横切り、この日も「神谷バー」へ。
こちらは明治13年(1880)創業。
荷風が生まれた翌年だ。
久しぶりに2階へ上がりたいが
やはり料理を取らずに済む1階にする。
いつものようにドライ大瓶と
電氣ブランオールドのチケットを購入。
交互にグラスを味わい、
互いのチェイサー役を担わせる。
歳末のエンコの濃密な空気を
存分に吸い込んだわけであります。
「尾張屋本店」
東京都台東区浅草1-7-1
03-3845-4500
「神谷バー」
東京都台東区浅草1-1-1
03-3841-5400