読者は覚えておらりょうか?
ちょうどひと月前に
パンやカレーの専門家たちと一緒に訪れた、
本郷のタイ料理店のことを。
その際、接客してくれたタイ娘に
(実は彼女、店のジョイント・オーナー)
「あとひと月したらバンコクから
お母さんが東京に来るんです」
「ああ、そうなの?」
「会ってくれませんか?」
「ハァ~!? なんでまた?」
このコはいったい何を考えてるんだ?
ちょいと手の込んだ美人局か?
そのときはともかく
「うん判った、その頃になったら顔出すヨ」
そしてひと月後、「ガパオ専門店」に立ち寄ると
彼女、満面の笑みを浮かべて
「本当に来てくれたんだァ!」
その隣りにはお母さん。
二人は奥のカウンターで食事中だった。
「初めまして、アンナです」
「どうも、ボクはJ.C.」
娘のニタは接客に戻り、
母のアンナにビールを勧めて飲み始める。
訊けば、昨日東京に着いたばかりとのこと。
日本語がそこそこ上手なので会話も弾む。
話題はもっぱらバンコク。
J.C.は1980年代に二度訪れている。
どうやら美人局ではなさそうだ。
この女(ひと)は純粋に日本が好きなんだネ。
ハナシはだんだん盛り上がって来たゾ。
20時を過ぎて客足も途絶えた。
もうお客さんも来なさそうだから
こっちで一緒に飲もうヨ。
娘のニタとシェフのタイ人のオバちゃん、
(名前は知らない)
みんなでカンパイ!
いや、けっこう飲んだヨ。
殊に効いたのはアンナがタイから持って来た、
マー・ジェイ・ダムなるバナナの酒。
ウォッカに甘みを加えたようなスピリッツだが
かなり強烈で立ち上がったときによろけたくらい。
客が来ないのをいいことに
飲むほどに酔うほどに
にわか飲み会はさらなる盛り上がりをみせる。
挙句の果てに決まったのは
J.C.がアンナを鎌倉に連れてゆくんだとー。
欽チャンじゃないけど、何でこうなるの?
「ガパオ専門店」
東京都文京区本郷3-30-7
050-5492-1419